ピグマリオンコンプレックス

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「お前、俺の心が読めるんだろ? だったら、俺の心を読めばいいだけなんじゃないのか?」 「それはそうなんだけど。本人の口から言われなければ、何の意味もないこともあるでしょ」 「確かに、それはそうかもな」 人の心が読めることで知らなくてもいいことを知ってしまったり、人の裏が読めて人間不信になりそう——というのが俺の率直な感想だった。真実かどうかは本当にどうでもいい。 俺たちはどこか似ているな、と勝手に思っていた。 互いに心がどこかで傷ついている。俺は臆病になり、朔は発散させるべく絵に打ち込んでいる……方向性が違うだけで本質は同じだ。 朔がどう思っているかは分からない。でも俺は朔といると楽だ、自分を飾ったり大きく見せる必要がない。朔にはどんなに装っても中身が見えている……そう思うと気ままに振舞うことが出来た。 恋をするというにはあまりに程遠い憐憫や同調、ほんの好奇心——俺は朔が一つの絵を描き終える度に部屋に呼んでもらい、世話をするようになっていた。 朔は俺の娯楽になりつつあった。 「こら、起きろ朔っ!」 皮をパリっと焼き上げたソーセージと千切りしたキャベツをコッペパンに挟み、マスタードとケチャップをかける。完璧な昼食だった、朔がまだ寝ているということ以外は。毛布を剥がしても死んだように眠っている。 「本当に一度寝たら起きない。朔っ、起きろったら」 「うーん……」 朔はびっくりするほど飲まず食わずでアトリエにいる間ずっと絵を描き、帰ってくると痩せている。 お前はアスリートか何かなのか。一度そう朔に聞いてみたけれど、彼は首を傾げるばかりだった。帰ってくると俺に食事を強請ってくる、困ったもんだ。 「ふふ、よっちゃんも断ればいいのに断らないから」 ……だそうだ。 朔のクセに生意気な。 俺が朔の部屋に来てから一時間経ち、出来たてだったホットドックはすっかり冷めきっていた。朔が起きたのは俺が掃除機をかけている音がうるさかったからだ。 「よっちゃん、おはよ」 「何がおはようだバカ。もう昼過ぎてるぞ」 「今日のご飯なに?」 「ホットドッグ」 ビックリするほどゆっくり起きて、ボサボサ頭のまま朔は二つほどホットドックを平らげて、美味しいとはしゃいだ。またゴロンとベッドに横になる。人間じゃなくて、動物みたいな仕草だった。 「なんだ、寝るのか?」 「ううん。悪い夢をみたから、描いておこうかなって」
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