ピグマリオンコンプレックス

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俺の運命を決定的に変えてしまったのは社食にあるカレーライスだった。 お腹が空いていて、もう何でもいい、食べさせてくれと社食に駆け込んだ。そこで選んだのがカレーライスだ。 俺は広告代理店のバックオフィスで経理をしている。 四年前まで営業にいたが、あまりに人との交流が苦手で向いていなかった。上司の須藤さんにやんわり異動願いを出してみたら苦笑いされるくらいにはプレゼンが下手で大いに悩んでいたし、向いてないね君、と取引先に直接言われることもあった。 残念ですが今回は、また機会がありましたら、そんなことを言われて見積もりの低かった他社をクライアントが選んでも俺は悔しいとすら思えない。そもそも広告への情熱がなく、自社の強みを売り込めない。相手の心を動かせるほどの言葉を俺は持ってない。そもそも口下手なのは完全に営業失格だ。 部署を異動するまでそんな価値のない自分に落ち込む日が続いた。 今の仕事は事務と経理で本当に地味だけど、俺には向いている気がする。 毎日今日は上司になんと言われるのだろうという心労がなくなった今、俺は地道にコツコツと働いている。社会人になってから大学の友人たちとも交流がなくなり、実家とも疎遠。何処からどう見ても俺は孤独なサラリーマンだったが、それでも社食で食事をするのは楽しみだった。 大きな窓から光を取り入れた明るい食堂は、いつも活気に溢れている。
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