悪魔の子

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「それでも、犯罪は悪だ。殺人は、どんな理由があっても裁かれなきゃならない。この国は法治国家なんだから……決して俺は自分のことを“正義の人”なんて言わないし、言えないけど、それが俺なりの正義だと思ってるよ」 そう言った幸守を見つめる左門寺の目は、どこか寂しそうに見えた。 左門寺が“悪魔の子”と呼ばれていたことは初耳であった。たしかに彼は悪魔的に性格が悪く、すべてのことを斜め上から見ている傾向はあるが、決して悪魔ではない。“殺意”を容認しているとはいえ、それを行動に移した人を許さないという正義感は持っている。警察の犯罪捜査に協力しているのだって、犯罪への飽くなき好奇心だけではない。幸守はそんな彼を知っているから、彼がそんな風に言われることが心外であった。 すべてを語り終えた左門寺は、「どうだい?これが君が聞きたかったすべてだ。満足したか?」と幸守に聞いた。 「あぁ、満足したよ」 幸守の心は重く苦しいものであった。今まで一緒に暮らしてきて、左門寺のことを一番近くで見てきたし、彼の高校時代のことだって知っているのに、こんな壮絶な過去があったとは知らなかったことに、幸守はどこか申し訳なさを感じていた。それを感じ取ったのか、左門寺は「僕の過去を聞いて、君が落ち込むことはない。落ち込んだからといって、僕の過去が変わるわけでもないんだから」と言って、再び窓の外の景色の方を向いた。彼は背中越しに少し離れたところで佇む幸守の存在を感じながら、「僕も君と同じだ。この世に起きる犯罪を許すことはない。犯罪を犯し、理性の淵から落ちた犯罪者を許さない______」と言った。 その男は、“犯罪捜査”に(カコツ)けて人を狩る______。幸守は、左門寺をそう例えたのであった。
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