悪魔の子

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「俺の場合、そんなことしたら尚更何も書けなくなるよ。やっぱスランプじゃなくて、才能が枯渇したってことなのかなー」 「まぁ、とりあえず、今は休めよ。あ、そうだ。事件の捜査はどうなんだ?犯人は捕まりそうなのか?」 基部は事件のことについて聞いた。こういったことは一般人には話してはいけないことになっている。幸守はそう説明すると、「えーいいじゃん少しくらい」と、基部は駄々をこねる。 「少しでもダメなんだよ。そんなことしたら、俺も左門寺も次から捜査に加えてもらえなくなる」 「じゃあダメかー。そんなことなったら、大事なネタ探しの場がなくなっちまう」 「俺、実際の事件から着想得たことないんだけど」 それは幸守のポリシーであった。 『ノンフィクションを小説にはしない』______。それだけはずっと守り続けてきた幸守は「俺の小説はゼロから全部俺が生み出した創作品だよ」と基部に言った。 「そんなくだらないこと言ってるからじゃないのか?ノンフィクションだろうと小説にしちゃえばフィクションになっちまうだろ」 「実際にあった事件には、被害者やその遺族、加害者遺族だっている。その人たちの気持ちを考えたら、むやみやたらに小説になんかできないよ。犯罪や事件は、関与した人たちの人生を大きく変えてしまう。その後の人生にだって大きな影響を与えてしまう。それを煽るようなことは俺にはできないよ」 元々刑事として様々な凶悪事件に立ち会ってきた幸守だからこそ言えることであった。そして、その思いは昨日左門寺の話を聞いてからは尚更強くなった。だが、基部はそんなことは知らない。彼はとにかく幸守に新作を書いてほしい一心であった。でなければ、探偵雑誌『宝玉』は廃刊になってしまう。
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