悪魔の子

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「もう少し待っててくれ。練り直してみるから」 幸守はそう言って、基部から原稿を受け取った。その際、「頼むぜ先生。もう頼りはお前しかいないんだから」と基部の切実な思いを聞き、「なるべく期待に応えられるようにがんばるよ」と、自信なさげに幸守は言った。 基部と別れて、幸守はガックリと肩を落として帰路に着いた。原稿についてダメだと言われることは薄々勘付いていたが、面と向かって言われてしまうとやはり凹む。自分が凡人なのだと改めて思い知らされた気分であった。そんな彼のスマートフォンが鳴り響いたのは、帰路に着いてすぐのことであった。電話の相手は、左門寺であった。幸守が電話に出てすぐ「これから警部たちのところに行くんだが君も来るか?」と聞かれた。恐らく、あのDVDプレーヤーの解析が済んだのだろう。傷心であった彼は、正直そんな気分ではなかったが、あのDVDプレーヤーに仕掛けられたトリックへの好奇心が勝ってしまって、「あぁ、今から行くよ。警察署は近くだから、すぐ着くと思う」と答えた。 「わかった。じゃあ向こうで落ち合おう」 そう言って、左門寺からの電話は切れた。幸守はゆっくりと帰路から警察署へ向きを変えて、再び歩き始めた。 警察署で左門寺と落ち合い、二人は菊村と薫と共に鑑識課のオフィスへと向かった。そこで彼らのことを待っていたのは、久米次郎。鑑識課の優秀な鑑識官で、菊村とはプライベートでも会うほど仲が良い。「待っていたよ」と言った彼は、左門寺たちがオフィスに入って早々に話を始めた。 「こういったものの解析は普段やらないんだがね。簡単な仕込みだったからよかった」 「無理を言ってすまない。それで、何がわかった?」 菊村が問いかけると、次郎はノートパソコンの画面を一同に見せながら、「仕掛けがあったのは、DVDプレーヤーにじゃない。被害者が観てたDVDにあったんだよ」と言った。
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