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そうか、小説も同じだ______。
幸守は今まで、ノンフィクションは小説にしないというポリシーを必死に守り抜いてきた。だがその結果、彼は小説が書けなくなった。書けたとしても、面白くない。それは、ゼロから面白いものを生み出そうと無理をしていたからである。そうするのではなく、実際にあるものを元にして、それに関連する情報を集めて物語を作れば、面白いものができる。ただ、そのポリシーは忘れないように、その元にするものを実際に起きた事件を省くようにすればいい。その土地の歴史だったり、文化だったりを元にして、それらを小説に活かしていけばいいだけなのだ______。
幸守の中で何かが吹っ切れた。今なら小説を書ける気がしていた。そんな彼の顔は、いつもより清々しい表情をしていた。
「今までの君とはどこか違うね」
左門寺は幸守を見てそう言った。
「お前のおかげで良いものが書けそうだよ」
幸守は嬉しそうに言った。
薫が回してきた車に乗り込み、一同は田丸悠司が殺害された倉庫まで来ていた。その中はやはり暑い。日中でも40度近くまで気温が上がるため、北海道民には最悪の環境であった。それでも、左門寺はその暑さなどまったく感じていないように、平気な顔をしてその倉庫に入っていく。薫も事件の捜査のためならと左門寺に負けじと対抗して倉庫に入っていく。それとは対照的に幸守と菊村はそんな二人をまるで奇妙なものを見るような目で見ながら、嫌々倉庫に入っていった。
「もう一度確認ですが、鍵はたしかにこの倉庫の一番奥の部屋にあったんですよね?」
その倉庫内を見回しながら左門寺は薫に聞いた。
「えぇ。鍵は被害者が倒れていた部屋の隅にありました。その鍵は特殊な鍵で複製は不可能。この倉庫の鍵は、すべてその鍵で施錠できます」
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