悪魔の子

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複製不可能な鍵が、被害者が倒れていた部屋の隅に落ちていた。そんな状況なのに、倉庫の鍵はすべて施錠されていた。犯人は田丸を殺害した後、いったいどうやって倉庫の中から脱出したのだろうか______。左門寺にはそのトリックの全貌が見えているのか、ゆっくりとその場にしゃがみ込み、地面を指でなぞるようにしていた。 「何かわかったか?」 幸守はこの耐え難い暑さに悶えながら聞いた。 「どうだろうね。君は何か良いアイデア思いついたかい?」 左門寺が彼の方を向いてそう聞き返す。「さっぱりだ」と両手を挙げて答える幸守に、「だろうね」と左門寺は言って立ち上がった。 「これだけ難解なトリックが思い付けば、君ももっと有名な推理作家になれるんじゃないのか?」 「うるさいな。俺は俺で必死にやってんだ。せっかくやる気になったところなのに余計な茶々入れんな」 「そうか。それはすまない」と謝った左門寺だが、その口調にはまるで謝る気はなかった。謝るというよりは、幸守のことを煽っているかのようであった。 「それで何かわかったのか?俺のことあーだこーだ言ってるけど」 痺れを切らした幸守が聞いた。「あぁ。ひとつ、調べさせてほしい場所が出てきたよ」と左門寺は答えた。それに反応して、「それはどこですか?先生」と、即座に菊村が尋ねると、「この屋敷のキッチンを見せてほしい」と左門寺は答えた。 「キッチンですか?」 薫は驚いていた。それが事件とどんな関係があるのか、彼女には理解できなかった。 「えぇ、キッチンです。僕の推理が正しければ、この屋敷のキッチンにこの倉庫を密室にしたトリックのカギがあるはずなんですよ」 「それなら行きましょう。今、案内します」と言って、菊村の案内で左門寺たちは屋敷のキッチンへと向かった。
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