悪魔の子

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左門寺もそのことには気付いていて、呆れてため息しか出ない様子であった。そして彼は、仕方ないといった感じで、「このトリックを解くヒントは合わせて三つ______」と言いながら、左門寺は右手の指を三本顔の前で立てた。 「一つは、若干傾斜している倉庫の床。二つ目は、暑すぎる倉庫内。そして三つ目は、この製氷器______。やり方は簡単だ。まず犯人は、被害者の田丸さんをあの倉庫に呼び出し、正面からナイフを刺して殺害。倉庫を出て、それぞれの部屋と倉庫の扉の鍵をかけた。その後に、その鍵を倉庫の扉の下の隙間から入れて、奥の部屋まで戻したんだよ」 「ちょっと待ってください、先生。じゃあ、鍵は自分で奥の部屋まで歩いていったってことですか?」 そんな非現実的なこと、菊村にだって不可能だとわかる。ここに来て信じられない推理を話す左門寺に、一同は皆否定的であった。 まさか、そんなこと、あり得ない______。誰もがそう思っていたのだが、左門寺はそれを一蹴するかのように、「僕は“鍵が自分で奥の部屋まで歩いていった”なんて言ってないですよ」と話した。 「僕は、“奥の部屋まで戻した”と言ったんです」 「でもどうやって______」と、幸守が言った時、彼は閃いた。 そうか______!それで傾斜とあの製氷器が必要なのか______! 幸守は思わず声を上げた。「転がしたのかッ!鍵を!」頭の中のモヤモヤが吹っ切れるこの感覚は、快感以外の何物でもなかった。 「そういうこと。さすが幸守くんだ」 その時のそう言った左門寺の人のことを小馬鹿にしているような口調が妙に鼻についたが、ここは素直に喜んでおこう______。トリックの謎が解けた幸守とは違って、二人の刑事は未だにわかっていないらしい。
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