葉月小五郎

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-------- 葉月小五郎は、その特徴的な口髭を触りながら、「残念ながら、犯人は既に、私の手の中です」と、まるで呟くように言った。それによって周囲の目は、一斉に彼に集められる。そして、彼はそれまで口髭を触っていたその指で、この一連の事件の犯人を指差し、「この一連の事件の犯人は、あなたです______」と、鋭い眼でその相手を見たのであった。 -------- まさに、クライマックスの場面を読んでいたところで、彼、真壁研斗はそのページに栞を挟み、そっと小説を閉じた。 その本の表紙には、『名探偵・葉月小五郎の推理』と書かれている。それは、今この推理作家界で、『日本のエラリークイーン』と呼ばれる有名推理作家、『葉月小五郎』の最新作である。 ここで登場した、『葉月小五郎』という名前だが、作者と作品に登場する名探偵の名前が同じである。それは、推理作家だけでなく小説家の中ではよくあることで、有名なところで言えば、やはり、先ほども出た『エラリークイーン』だろう。この『エラリークイーン』も、作中に登場する名探偵の名前と、作者のこの名前が同一である。日本で言うならば、『法月綸太郎』が有名だろうか。とにかく、こういうことはよくあることなのだ。 この『葉月小五郎』は、『エラリークイーン』に喩えられることもあって、何かと共通点が多い。例えば、『エラリークイーン』は『フレデリック・ダネイ』と『マンフレッド・ベニントン・リー』のコンビで書いている作家で、『葉月小五郎』も、『田丸悠司』と『小野環樹』の二人の作家がコンビを組み、これまで書き進めてきたものであった。 その奇想天外なトリックと、巧みな文章により読者を騙し、そして、極め付けは読者に対する“挑戦状”が『葉月小五郎シリーズ』の醍醐味であるところも、『エラリークイーン』と共通する箇所だろう。
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