葉月小五郎

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そのことから人気を博し、『葉月小五郎』はドラマ化、映画化までされ、新人作家なのにも関わらず、デビューしてからだったの一年で、推理作家の賞レースを総なめしてしまった実力は、他を圧倒するものであった。そんな『葉月小五郎シリーズ』の最新作をついに買うことができた彼、真壁研斗は、一日でそれを解決編のところまで読み進めてしまい、内心、少し後悔していたのであった。 「少し集中し過ぎたな」 真壁研斗はそう呟いた。 自分のデスクに置かれたコーヒーを一口啜り、彼は大きく息を吐く。 深夜に輝く青い月が、その光で淡く研斗を照らしている。 「もうこんな時間か。明日は日勤だったか______」 壁にかけられた時計を確認し、彼はそう呟く。そしてさらに、「もう寝なきゃな______」と言って、寝室へと向かった。 市内にある介護施設『しらゆり苑』は、できてまだ間もない施設なのだが、現場上がりの人が施設長をやっているだけあって、そこで働く職員と利用者のことを第一に考える施設として有名で、その業界では人気の施設であった。その施設で、真壁研斗は働いている。この介護の業界に入って、もう3年になるが、意外とこの仕事が自分に合っているのかもしれないと思い始めていた。別に、この仕事が好きだというわけではない。ただ、他の仕事と比べて色々な人に出会えるし、“人間観察”が好きな彼にとってそれは“暇しない”という点に関してだけ言えば良いことであった。しかし、“認知症”という脳の病気に罹患した利用者の世話をするのは、傍観しているとわからないが極めて大変である。 世間では、“利用者虐待の事件”や“介護殺人”のことがニュースに取り上げられ、テレビのコメンテーターが好き勝手に、「どんなことがあっても虐待はいけない」だとか、「そんなことをするなら最初からその仕事をしなければいい」だとか、心ない言葉を吐き連ねる。
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