葉月小五郎

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この仕事をしてきて、その言葉が勝手なことだと理解できたのは、1年ほど働いてからであった。そういった事件の報道をテレビで見るたび、また現場を知らない奴らが勝手なことを言うのかと、ため息が出てしまう。 施設では、やはり利用者がテレビを観ることもあるから、決まって、テレビは大抵ついている。だから毎日様々なニュースや情報が番組を通して届けられるわけだが、今日もまたそれであった。真壁研斗が出社し、先にいた職員に挨拶をして、フロアに入った。すると、そこでは今巷を賑わす殺人事件のニュースがちょうどやっていて、その犯人についてそのフロアにいる職員たちが話していたのであった。そんな中、研斗が出社してきたから、当然職員の一人が彼に尋ねる。 「ねーねー、真壁リーダーは誰だと思います?犯人」 聞かれた研斗は、いったい何のことなのかわからず、「え?」と聞き返す。「ほら、この前起きた殺人事件の犯人ですよ!」と、他の職員が言いながら、フロアのテレビを指差す。研斗もそのニュースに目をやって、真剣に見始めてから一言、「こういう場合、一番犯人っぽい人が必ず犯人とは限らないんじゃない?」と言った。いつになく真剣で、何か確信を得たような口調で話す彼に、周囲は少し驚き、それまでざわざわしていたのに一気に静かになる。そんな中、研斗はさらに続けた。 「もしかしたら事件の真犯人は、このニュース見て笑ってるかもよ」 その時の彼の横顔は、周囲には少しサイコパスに見えたのか、周りの職員たちは少し怯えているように思えた。それに気付き、研斗は苦笑で誤魔化し、「さ、仕事だ仕事!今日も一生懸命働くよ!」と言って、他の職員たちに発破をかける。一応これでも“フロアリーダー”という立場であるから、皆を先導しなければならないのだ。
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