悪魔の子

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食事中、左門寺と研斗はまったく喋らない。兄弟だというのが嘘なんじゃないかと思うほど、二人はやはりよそよそしかった。その間を埋めるため、幸守は必死になって会話を繋げようとしたのだが、それも困難であった。そしてついに、幸守は「なんか、二人とも兄弟じゃないみたいだな」と言ってしまったのである。すると、研斗は「そうかい?自分と兄さんはいつもこんな感じだったと思うけど、兄さんはどう思う?」といつもの調子で左門寺に聞いた。左門寺は食事中だった手を止めて、ナプキンで口元を拭き、研斗の方を見て、「お前はどうして火箱刑事と付き合ってる?」と聞いた。その時の彼の真剣な表情と口調から、彼が何かを探っていることを察した幸守は、彼もまた真剣に研斗の方を見た。だが、研斗は相変わらず飄々としていて、「趣味が合って、一緒にいて楽しかったから付き合っただけだよ。男女が付き合う理由なんて、所詮そんなもんじゃないのか?」と聞き返した。 「兄さんだって、今までそういう経験をしてきたでしょ?」 「話を逸らすな。聞いているのは今は僕の方だ」 いつもより強い口調の左門寺に迫力を感じた幸守は驚く。幸守にはわからないが、左門寺の中では薫と研斗が交際していることについて何か引っ掛かっているらしい。幸守はそれを左門寺に問いかけようとも思ったのだが、この二人の間に張り詰める緊張を前にしてしまっては、彼は何も聞けずにただ沈黙するばかりであった。 そんな中、研斗が答えた。 「話を逸らしてなんかいないさ。それに、今答えただろ。俺は薫のことが好きだ。だから付き合ってる。まさか、その仕事仲間が兄さんだとは思わなかったけどね」 「もちろん、僕もそれは予想していなかったさ。会ったのは10年ぶりくらいだったしな」 「11年だよ。俺たちが別々の人生を歩むと決まってから、もう11年だ」
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