悪魔の子

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「よくそんな細かく覚えているな」 「俺にとっては衝撃的な出来事だったからね。“あれ”は______」 幸守はその“あれ”について聞きたかったが、今は聞ける雰囲気じゃない。左門寺と研斗の会話は、この後も続いた。先ほどまでの一言も話さなかった二人とは思えなかった。 「お前は今何をしている?仕事は?」 「介護士だよ。市内の施設でね。一応資格も持ってる。兄さんは探偵だっけ?」 「違う。僕の本業は異常犯罪心理学者さ。警察の捜査協力は彼らから依頼されてやっている」 「兄さんはやっぱり犯罪を研究する人になったんだね。それも、異常犯罪だなんて」 研斗のこの発言から、左門寺と“異常犯罪”は何かしらの繋がりがあることがわかる。そのことについても幸守は聞きたかったが、この二人の他を寄せ付けないほどの険悪な雰囲気を感じ取り、あえて今は何も聞かないことを選んだ。その後も何かとやり取りが二人の間に交わされるかと思われたが、それからは二人とも黙って目の前の食事を楽しんでいた。 研斗は常に飄々としていて、幸守には何かとくだらない話をしていたわけだけれど、左門寺とは目も合わせないし、何かを話すわけでもなかった。この奇妙な場にいることを強いられてしまった幸守は、この上ない居心地の悪さに吐き気を覚えていた。おかげでせっかくの御馳走も味がしない。 その地獄のような時間が終わり、研斗が帰宅することとなって、彼を見送った後、幸守と左門寺は暖炉の居間に向かった。部屋に入って早々、幸守は「お前たち兄弟は何者なんだ?」と総じて聞いた。すると、左門寺はいつものように、幸守をあしらうかのように「知ってるだろ?ただの兄弟さ」と答えた。 「だったらもっと喜んだらどうなんだ?久しぶりの再会なのに、感動の再会って感じじゃなかっただろ」
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