悪魔の子

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「それで、父は逮捕された。裁判にかけられ、もちろん有罪。精神疾患を疑われたが、そんなこともなく、死刑の判決が下された。そして、父は就いていた職業と、犯行に必ず切れ味の鋭いメスを使っていたことなどから、“外科医”と渾名(アダナ)された。これで事件は解決。そう思っていたのは警察だけだった。僕たちはその日から、世間からの嫌われ者だった。母は働いていたが、母の稼ぎだけでは当然生活費には足りず、親戚中をたらい回しにされた。その時のストレスで、母は体を壊し、呆気なく死んだ。僕と研斗は周りから“悪魔の子”と蔑まれた。僕はこんな運命を辿らせることになった原因である父を心の底から恨んだ。その時だよ。僕が初めて人を本当に殺したいと思ったのは。何もかもがアイツのせいだと、今だって思ってる。アイツと同じ苗字を名乗っているのが嫌で、僕は苗字を母方の『左門寺』に変えた。そのために母方の親戚に頼み込んで養子にしてもらってね。そのすぐ後に、君と出会ったわけだよ。11年前、僕は苗字を変えることを研斗にも勧めたんだ。だが弟は断った。弟は元々父のことが好きだったからね。苗字を変えることは父を見捨てることになってしまうとでも思ったのだろうね」 そこまで語った左門寺は、その後も、連続快楽殺人犯の家族として、世間からどんな仕打ちを受けてきたのか、世の中がどれだけ残酷なのかを語った。そして、最後に彼は「幸守くん、この世の中で誰が一番悪魔なのか、わかるかい?」と質問した。幸守は悩みながらも次々に答えていく。だが、そのどれもが間違っていた。欲望のままに人を殺す殺人犯でもなければ、それを捕まえられない警察でもない。ましてや、その殺人犯の家族でもない。幸守が出した答えをすべて聞いてから、そのすべてに首を振り、左門寺はこう言った。 「それはね、善良な市民たちだよ」 これはまた皮肉なものだ______。“善良な”と付いているのに、それが一番の“悪”だとは______。幸守はイマイチ理解ができなかった。左門寺はなぜそう思うのか、話し始めた。
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