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黒い影
役員室には、大きなガラステーブルがある。
取り囲むように大きな革張りのソファ。
今日の役員会はここで開かれた。
執行役、監査役、監査委員が集まる。
進行は留依が務めた。
「では社長、お願いいたします」
ソファに腰かけるとふんぞり返ったような姿勢になる。
自然に貫禄を倍増させる空間である。
黙って座っていると冷汗が出そうになった。
今日の祇園寺は表情が硬いように見える。
言葉を選ぶように話し始めた。
「実は、小耳にはさんだのだが個人情報漏洩の可能性がある。
どう対処するべきか意見を聞きたい」
皆あまり表情を変えずに頷くなどしていた。
「情報の出どころは」
「うむ」
祇園寺が言い淀んだ。
長船は身を乗り出して手を組んだ。
「探偵からの情報です」
「なぜ探偵を」
「家電メーカーの企業秘密漏洩に、我が社の社員が関わっていると疑いがかかっているためです」
ちらりと祇園寺の方を見る。
大きく頷いて、足元に視線を落とした。
「役員の間だけの話にしてもらいたい。
いずれにしても、最善策は何もしないことだ。
だが、事実を把握する必要はある。
賠償が必要なケースならば、事態把握から1時間以内が勝負だ」
「方針はわかりますが、具体的な動きを決めておく必要がありますね」
「弁護士の長船さんに対応マニュアルを作成してもらった。
読んでおいてくれ」
後は連絡事項などを話して閉会になった。
社長室に戻ると、小声で聞いた。
「先ほどおっしゃった探偵は、最近監査部に入った田口さんでしょうか」
社長室は30畳ほどの広さがある。
窓を背に大机があり、ハイバックチェアに祇園寺が鎮座する。
手前左側に応接セット。
右側に大きな書棚。
入口のドアは明け放しになっていて大声で呼べば長船が飛んでくる。
「なぜそれを ───」
「ただの勘です」
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