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出来たてのカフェラテは、熱くてまだ飲めそうにない。
高校を卒業して八年、こんな街中にある有名チェーン店のカフェで、昔好きだった人にバッタリ会ってしまった。
「平岡?」
聞き覚えのある声に反応した。
「え、神垣くん?」
「え、マジか。久しぶり」
スーツ姿ではあるけれど、笑いかけるその表情は高校の時と変わらなかった。懐かしい気持ちでいっぱいになると同時に、苦い思い出までこみ上げてしまう。
「今何やってんの?」
神垣くんはカウンター席に座る私の隣で、手にしたホットコーヒーを一口飲んだ。
「仕事帰りに少し買い物して、一息ついてるとこ」
彼は急に吹き出して、なぜか笑い始めた。
「違う違う、仕事だよ。今何やってんの? オレは見ての通り、普通のサラリーマン」
あ……仕事ね。勘違い、恥ずかしい。さりげなく目をそらした。
「私も普通のOLだよ」
動揺してもなんでもないように振る舞ってしまうのは、昔から全然変わっていない。
「全然変わらないね」
「無駄に歳だけ取ってるよ」
笑って受け流した。私はずっと変わらない。すました顔して、なんでもないように装って、いつも逃げていた。あの頃、神垣くんがずっと好きだったのに、結局気持ちは伝えられないまま、気が付けばあれから八年も経ってしまった。
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