おそろいの抹茶ラテ(旧)

8/9
30人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 間違ってはいない。これで良かったんだと思っていた。香凜は神垣くんに告白したが結局振られたらしい。人づてに聞いた。香凜とはそれきりだった。   「卒業式の時、香凜にコクられたんでしょ」 「え? あ、うん」 「なんで振ったの?」 「……え、と。す、好きな人いたから」  珍しくまごつく口調に、高校時代の神垣くんが垣間見えた。  好きな人、いたんだ。じゃあ、どんなに神垣くんのことを想っていても、私も香凜も失恋確定だったんだね。 「あ〜、そうだったんだ。それは香凜が振られても仕方ないよね」  苦笑いが適当だろうか。抹茶ラテは飲み干しているのに、もう一度カップを口元へと運んでしまった。飲み物はもうなくなった。  沈黙は店内の話し声やBGMに紛れて、気まずさが薄れている。 「じゃあ、私そろそろ……」  (から)のカップを主張する。気まずいからじゃなくて、飲み終えたから席を立つんだ。 「あ、うん」  その相槌が名残惜しい。神垣くんも一気に抹茶ラテを飲み干した。その場から離れたかったのに、「オレもそろそろ……」と腰を上げる。結果、二人で店を出た。    自動ドアが開くと、風が緩やかに私たちを包む。日が落ちるのが早くなった。見上げた深い群青色の空には一番星。 「宵の明星だ」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!