あいつの家に辿り着けない

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「ここがあいつの家か。ずいぶんと立派な家に住んでいるのね」  目の前にあるのは、三階建ての洋風豪邸。フェンスには薔薇(ばら)が絡み付いているけど、残念ながら開花はまだのようだ。  普段、シンプルで安そうな、しかも薄ら汚れた服を着ているあいつの家とは、とても思えない。それだけ、目の前にある家は豪華だった。 「はっ」  もしかしたら、家を間違えているかもしれない。  表札を見てみる。  やっぱり、間違えていた。 「あれ? あの歯医者の所から少し歩けば、あいつの家に着くはず……」  馬鹿な! そう思い、スマホをバッグから取り出し、地図アプリを開く。 「うそ!」  愕然(がくぜん)とした。  地図アプリによると、私は別の場所にいることになっているのだ。  信じられないので、今来た道を戻ってみる。  あるはずの歯医者がない。代わりにあるのは、何の変哲もない一軒家だ。  地図アプリを見ると、ここを北に向かって歩き、左右に道が見えたら右に曲がると、私が先程歩いていた所に出る。そこからまっすぐ歩き、歯医者の所を左に曲がれば…… 「どうしてこんなことが……」  あまりにも奇妙なことだったので、考え込みそうになったが、悩んでいても仕方ないので、気を取り直してこのまま進むことにした。
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