幼い店主

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少女が居なくなった店の中へ入る。 本当に色んな色をしていて綺麗だ。 色々な組み合わせを考えて、幸せな妄想を膨らませていると、怯える者が居なくなった溜め息男が近づいて来た。 「…今度は何をする気だ」 「~♪ないしょ~♪」 「はぁ」 短くない付き合いで、それ以上の努力は虚しいだけだと理解している溜め息男は、項垂れたまま、店の後ろの方に追いやられてあった、木箱のような物に腰をかけ、持久戦を覚悟したようだ。 1時間位経っただろうか?幸せな妄想を更に膨らませていると、少女が両手いっぱいの布を抱えて、先程までとはまるで別人のような笑顔で息を切らせながら戻って来た。 「はぁ、はぁ、お姉ちゃん、沢山買って来たよ。これでいいの?」 「よし!こっちに来て、ここに広げろ」 店先に出ていた元々の商品達を横に追いやり、買って来た布を広げる。 華やかな色の布達。 晴天のような 雨のような 春のような 秋のような 大きさも柄も色も違う沢山の種類の布達。 そして、これまた沢山の端切れ達。 「うわぁ!お前、買い物上手だな!」 妄想の世界が広がっていく。 「私こんなに沢山の物を買ったの初めて!それも全部自分の好きな物を買っていいだなんて、すごく楽しかった!」 嬉しそうに笑って言う。 「よ~し。じゃあ今度は自分の好きな物を作るぞ!」 ? 「好きな物を…作るの?」 よく理解出来ずにいる少女を横目に、一片の布を取り、真ん中に端切れを置く。それを丸く包むようにして、絞った部分を妄想時間に用意してた、ガラス玉に何種類かの糸を通した物で括ってやる。リボンの形で糸を整えると、なんだかわからないが、ちょっと笑えそうな可愛い物が出来上がった。 「完成だ!お前も作ってみろ!」 そう言って出来上がった物を見せると、 「うわぁ!これ何?どうやって使うの?」 目を輝かせながら少女が聞いてくる。 「知らん。昔こんな形の物をばあちゃんが作って、時々家の中に飾ったり吊るしたりしていた。可愛いだろ?お前もお前が可愛いと思う物を作ってみろ」 へぇ~と話を聞きながら、すでに少女は自分の妄想の中に居るらしく、幾つかの布や糸や紐を手に取っては合わせてみる。そうして、 「出来た!」 弾けんばかりの笑顔で完成させた物を見せる。 「ほお。なかなかいいな。よし、どんどん作るぞ!」 2人でどんどん好きな物を作っていく。大きさも柄も色も組み合わせも、1つとして同じ物がないそれらの物達は、気付かないうちに店先を華やかにしていった。 2人で、また可愛いのが出来上がっただのと楽しみながら作っていると、 「まあ!これは何?可愛いわね~」 「わ~ほんと!色んな種類があるのね~」 いつの間にか、商品として並んでいた物達を見ている客が居た。 「これは1ついくら?」 そう聞かれて、はっとした少女が笑顔を忘れて困ったように、 「あの…これはその…」 と言い淀んでいる。 幼い店主に代わり、妄想時間に計算していた適正価格を告げると、 「あら、けっこうお手頃なのね。1つ貰おうかしら」 「じゃあ、私も1つ」 そう言って客達が出来立ての商品を選び始める。 その客を横目に、真っ青な顔をした少女が話しかけてくる。 「あの…あれ…お姉ちゃんが買った物を使って…」 「何この世の終わりみたいな顔をしている?私達が好きな物を詰め込んで作った。それを欲しいと言ってる奴がいる。最高の笑顔で買ってもらえ!」 そう言うと、少女は先ほどまでの笑顔を取り戻し、 「うん!」 と、客の前に立った。
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