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「……あの…今なんて?」
少女が聞き返す。
「聞こえなかったのか?ここに置いてある物全部買うと言った」
「はあ~」と、溜め息が聞こえるはずのない距離に居る男から聞こえた気がした。
「全部って…これ全部ですか?」
驚きながら少女が聞いてくる。
「ああ、そうだ。こんな格好しているが、ちゃんと金は持ってるぞ?」
そもそも全部合わせても、今日1日食べて泊まる分位にしかならない。
「ほ、ほんとうですか?!ありがとうございます!」
信じられないといった顔をしながらも、おそらく今日1番の笑顔を見せる。
代金を渡すと、商品を渡す為にまとめようとしている少女に声をかける。
「おい、それはそのままでいい」
?
手を止めて不思議そうな顔で見てくる少女に、更に驚く一言を言ってやる。
「それはそのままでいいから、今払った金で買えるだけの布を買って来い」
???
頭の中が理解の範疇を超えて麻痺してしまったのか、あろうことか、先程まで怯えていた男の方に救援サインを送っている。
気付いた男が、声が届く位の距離まで近づくと、溜め息混じりに、
「諦めろ。何を考えてるのかは皆目検討もつかないが、こいつがこんな顔をしている時止められる奴はいない」
簡潔明瞭に受け止めるべき現実を説明し終えた後、
「安心しろ。こいつは運だけは最強だ。お前の店の存続が危ぶまれる状況になっても、こいつが本気を出せば1日でまた商売出来る状況を作り出す事が出来る。その時は必ずそうさせると約束しよう」
なんだその勝手な約束
だいたい泣き出す程おびえてた奴が突然そんな事言ったところで…
「…わかった。よくわからないけど、沢山の布を買ってくればいいのね?」
信じられないことに、この男を信じたらしい!大丈夫かこいつ?
「おい!何か具体的に注文があるなら、ちゃんと言ってやれ!」
絶対に子供が泣き出す顔でこっちを見る。
「いや、具体的な注文はない。なるべくお前が綺麗だとか可愛いと思う物を買って来い。」
?
「お姉ちゃんが好きそうな物じゃなくて?」
「ああ、そうだ。お前が好きだと思う物だけを買って来い。時間はどれだけかかってもいい」
「…うん?わかった。」
「あ!それと、もし要らない端切れがあったら貰って来い」
何度か小首を傾げながらも、流石に市場をよく知ってるようで、迷うことのない足取りで駆けて行った。
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