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「ありがとうございました!」
最初に見た奴と同じとは思えない笑顔で客を見送っている。
「お姉ちゃん!また売れたね!」
嬉しそうに話しかけてくる。
2人で5つほど作ると2、3個売れる。
すっかり愛想のいい店主となり、新しい商品を製作中の少女に話しかける。
「何故こんなに売れるようになったかわかるか?」
手を止めた少女が不思議そうな顔で答える。
「お姉ちゃんが、この可愛い物の作り方を教えてくれたからでしょ?」
「違うな」
?
「私1人じゃなく、お姉ちゃんが居てくれるから?」
「全然違うな」
?
「ん~と……よくわかんない…」
不安そうな、困ったような顔をする。
「お前がそんな気持ちでそんな顔をしなくなったからだ」
?
「…お姉ちゃん、やっぱりよくわかんないよ」
「お前、この店もこの商品もこの仕事も、嫌いではなかったかもしれないが、好きではなかっただろう」
「…好きか嫌いかなんて考えたことないよ。去年お父さんが死んじゃって、手先が器用なお母さんが、色んな物を作って売るから大丈夫だよって言って、必要な物もお店も全部準備してたのに、1週間前に病気で寝込んじゃって…。その物とお店を使ってどうにかするしかなかったから…」
そう言って涙を浮かべる。
「馬鹿だなお前は」
そう言うと、驚いたように顔を上げる。
「父親が亡くなったのに、大丈夫だと言える母親が居て。母親が倒れてもお前が生きていける為の物が準備されていて、どれだけの好運に恵まれてると思ってるんだ?」
驚いた顔に更に驚きが加わっていく。
「今日この店の物が売れたのは、お前が本当に楽しんだからだ。お前が好きな物を手にして、好きな物を作り上げて、それを売ることが本当に楽しいと思っていたからだ。商品が何かは関係ない。お前が変わってなければ、私が作り上げたこの商品をこの店でお前が売ってても買いに来る奴は少なかっただろう」
固まったままじっと見ている。
「お前が子供かどうかは関係ない。お前に出来る事は無限ではないが、けっこうある。お前が楽しい事をしていれば、周りの者達も楽しくなる。きっと今日のお前を見たら、母親も少し元気になるぞ?」
涙を浮かべた目が見開いていく。
「…お姉ちゃん!言ってること全部はわかんないけど、でも、なんか少しわかる気がする!こんなに楽しくお店に立った事なかった。こんなに自然に笑顔でお客さんと話したことなかった。…私、もっと考えてみる!今日気になった布もあったし、今日買って来た布にもっと合う紐も家にあるかもしれない!私もっと可愛い物作りたい!」
すっかり太陽みたいな笑顔になりそう言う。
「ははっ。ああ、そうだ。そうしてる方がずっといいぞ。それから、店ももっと飾っとけ」
はっと気付いたように店を見渡し、
「そっか!お店も可愛い方が入りたくなるもんね!」
くるくるとした目が落っこちてきそうだ。
「ああ。それじゃ私はそろそろ行くぞ」
「え!?お姉ちゃん、もう行っちゃうの?」
一気に寂しそうな表情に変わる。
「ああ。まだまだ見たい物も行きたい所もあるしな」
「…そうなんだ。…そっか。…あ!お姉ちゃんの買った物!どうしよう!!まだ使ってない物だけでも…」
慌てて紐やら糸やらをかき集めようとしているので、
「要らん、要らん!」
と慌てて断わる。
「でも…お金はみんな使っちゃったし…」
そう言ってまた真っ青な顔をしている。
「そりゃそうだ!買って来いと言ったのは私だからな!私は欲しい物を手に入れた。だからそれは要らん」
?
「欲しい物?お姉ちゃんに何もあげてないけど…?」
真剣に考え込む。
「この店と商品とお前を見て、思いっきり変えてやろうと思ったんだ。全部変えられたからな。それで満足だ」
「………え?お姉ちゃんが欲しかったのは、それなの?」
「そうだ。なかなかこんな事出来ないだろ?いやぁ、楽しかった!じゃあな!頑張れよ!」
そう言って思考が追い付いてなさそうな少女を残し、店を後にする。
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