1720人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺と妹の友子は血が繋がっていない。年も8つ離れてて、あまり一緒に過ごした記憶もないんだ」
記憶を探っているのか、優希の目がどこか遠くを見つめる。
「親父は女遊びが激しくて、俺の母親も物心ついた頃には居なかった。その後、再婚した相手の連れ子が友子で…なにかにつけて懐いてきたが、俺は親父と折り合いが悪くて、すぐに家を出たんだ」
「そうだったの…」
「なにかの節目に会うくらいで、どこか遠ざけてた。親父とはもう関わり合いになりたくなかったからな。それに演劇の仕事が忙しくなってきて、ろくに構ってやれなかった」
苦しげに吐き捨てる横顔は、とても精悍だ。
こんなことを思うのは不謹慎だが、舞台俳優のいうのも頷ける。
「病気だと知らされたが、そのあとすぐに結婚すると聞いた。良い相手に巡り合ったんだと。この病気になったから出会えたんだと友子は笑ってたよ。だから俺は、てっきり幸せなんだと…」
そこで声を詰まらせた城田が、空を見上げた。
「いや、友子は最後まで幸せだったのかもしれない。あいつの正体に気づくことなく天国に行けたんだから」
「どうして、あの人が怪しいって分かったの?」
「たまたま見かけたんだよ、落合和美と親しげに笑い合っていた。まだ友子が亡くなって三日後のことだ。でもその時は、俺も忘れることにしたんだ。友子が安らかに逝けたのならそれでいいって」
最初のコメントを投稿しよう!