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本当にこの2年間、幸せだった。
恋焦がれ、そして一度は諦めた『結婚』という甘い響き。
まさか自分が『妻』となるなんて。
妻となり、大きな愛で包み込んでくれる夫と寄り添う人生。気づけば暖かい眼差しが注がれ、他愛もないことで笑い合い、失うことを恐れるよりも得ることのほうが大きい、あり触れた柔らかな生活。
それらすべては、永瀬浩二が私に与えてくれたもの。
『もしもし?香澄、今どこ?すぐに行くからっ』
「浩二っ…」
涙で、声が詰まって出ない。
『病院でなんか言われた?』
鼻を啜りながら「帰ったら話す」と言って、電話を切った。できれば、ちゃんと顔を見て話をしたい。話を、聞いてほしい…。
そう思うと居ても立っても居られず、急いで帰って夫を待つことにした。
マンションの駐車場に車をとめ、エントランスに向かって駆け出したそのとき。
愛する夫の後ろ姿が見え、私はたまらず駆け寄る。
あの心からの笑顔に、励ましてほしかった。
抱きしめてほしかった。
温もりを感じたかった。
それだけで私は満たされる。
たとえこの先、死ぬのだとしても私は救われる。
「…浩二さんっ」
しかしびくっと体を震わせた私は、フリーズする。
突然、引き裂くような笑い声が轟いたからだ。
それが夫から発せられていると分かると、今度は心が震え上がった。
誰かと電話をしてるようで、次の瞬間、あり得ないフレーズが──。
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