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えっ?
愛してる?
もちろん?
どういうこと?
一体、あのひとは誰と電話をしているの?
いや、これはなにかの間違いだ。
そうだ、きっとそうに違いない。
壊れかけた心を取り繕うが、心の声は幾重にもこだまする。
でも、笑っていた。
さも愉快そうに、笑い上げていたのは事実。
今さっき私と話をし、泣いていること、なにか異変があったこと、だから妻の様子がおかしいことに気づいていながら…高笑いをするの?
それとも本当に、愛しているとでもいうのか?
『もちろん』と枕言葉をつけるほど、電話の向こうの相手を愛してやまないとでも?
本当に真実が知りたかったら、このまま夫の後を追えばいい。
しかし、どんどん声が遠くなっていく。
予期せぬ検査結果に打ちのめされている私には、どうしても大きな背中を追いかけることはできなかった。
崩れ落ちないのが不思議なくらいだ。
ただ呆然と、その場に立ち尽くす私はさきほどの言葉を反芻する。
『もちろん、俺も愛してるって』
繰り返せば繰り返すほど、砕けた声色に思えた。
気心の知れた相手に贈った愛の言葉が、私の体内を蝕んでいくそれは、憎らしい癌細胞よりも恐ろしい。
信じられない…。
いや、信じたくない。
でも、でも──。
頭に浮かぶ疑惑が、どうしても消えてくれなかった。
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