【私の余命はあと…】

12/13
前へ
/408ページ
次へ
えっ? 愛してる? もちろん? どういうこと? 一体、あのひとは誰と電話をしているの? いや、これはなにかの間違いだ。 そうだ、きっとそうに違いない。 壊れかけた心を取り繕うが、心の声は幾重にもこだまする。 でも、笑っていた。 さも愉快そうに、笑い上げていたのは事実。 今さっき私と話をし、泣いていること、なにか異変があったこと、だから妻の様子がおかしいことに気づいていながら…高笑いをするの? それとも本当に、愛しているとでもいうのか? 『もちろん』と枕言葉をつけるほど、電話の向こうの相手を愛してやまないとでも? 本当に真実が知りたかったら、このまま夫の後を追えばいい。 しかし、どんどん声が遠くなっていく。 予期せぬ検査結果に打ちのめされている私には、どうしても大きな背中を追いかけることはできなかった。 崩れ落ちないのが不思議なくらいだ。 ただ呆然と、その場に立ち尽くす私はさきほどの言葉を反芻する。 『もちろん、俺も愛してるって』 繰り返せば繰り返すほど、砕けた声色に思えた。 気心の知れた相手に贈った愛の言葉が、私の体内を蝕んでいくそれは、憎らしい癌細胞よりも恐ろしい。 信じられない…。 いや、信じたくない。 でも、でも──。 頭に浮かぶ疑惑が、どうしても消えてくれなかった。
/408ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1719人が本棚に入れています
本棚に追加