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「はい、これ」
白い花束を手渡すと、妻の香澄が笑顔の花を咲かせた。
「お花なんて珍しいね。でも嬉しい」
「たまたま花屋の前を通りかかってさ。この花がなんか香澄に似てる気がして」
「私に?」と言いながら、顔を埋めるようにして芳醇な香りを堪能している。
「健気っていうか、可愛らしいっていうか」
結婚して2年になるが、こうして戸惑いもなく妻を『可愛い』と称することができるのは、我ながら才能の一つだと思う。
聞けば、世の夫どもは恥ずかしいと口にしないらしい。
俺からすると、それは怠慢でしかなかった。
愛を言葉や形として表現して初めて、相手に伝わるものじゃないか?
それが思いやりというものだ。
「可愛いお花ね。早速、花瓶に挿すわね」
そう言ってはにかむ妻を引き寄せ、後ろから抱きすくめる。
「香澄、愛してる」
「うん、私も」
しばらくそのままで、互いの愛情を確かめ合う。
すべては、香澄を思いやる気持ちがそうさせているんだ。
俺にとって妻は、特別な存在。
敬い、守り、慈しみ、愛でる。
惜しみなく愛を囁き、手料理には舌鼓を打ち、わずかな見た目の変化にも目敏い。髪を切ったのなら誉めそやし、頻繁にデートに誘い、セックスレスなんてものとは無縁だ。
なによりも大切に思うからこそ、自然と夫婦の関係性が築き上げられていく。
俺は、心から妻を愛していた。
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