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フワフワのネギトロ丼を味わいながら、夫婦で将来を語り合う。
もちろん、すぐに実現するわけではないが、夢を見たって構わないだろう?
悠々自適に珈琲を淹れるのも悪くない。
明確なビジョンが浮かび上がってくるが、どこか妻の表情が曇っているのには気づいていた。
2年も生活を共にすれば、嫌でも分かる。
いたって普段通りに振る舞おうとしている香澄の笑顔が、ほんのわずか強張っていることに。
それはでも、仕方がない。
きっと、あの苦しみは本人にしか分からないはず。
同じ苦痛を味わいたくないのだと、間近で支え続けてきた俺は察しており、妻が望むようにいつも通りを装う。
だから何気なく切り出す。
「今日は検診だろ?それじゃ、映画館の待ち合わせでいい?」
「うん、それでオッケー」
その後、行ってきますのキスを交わしてマンションを出た。
最初は会社を休んで付き添うと言ったが、香澄は首を振る。
一緒に行ったほうが心強いはずなのに、おそらく大袈裟にしたくないんだ。
ただの定期検診だから。
大したことはなく過ぎ去るものであり、わざわざ来てもらう必要はないのだと。
それにしても…。
よくあそこまで回復したと、マンションを見上げる。
それほど、俺が初めて出会った倉科香澄は憔悴し切っていた。
生きることを、諦めてしまったかのように…。
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