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「生きてたって仕方ないっ!」
そんな荒くれた感情をぶつけてくるほどに、俺たちの結びつきは強くなっていく。
数値が改善せず、何度となく投げやりな言葉を吐き捨てる。
けれど俺は、しっかりと受け止めた。
しまいには「あなたなんて大嫌い!あなたの顔なんか見たくない!」と罵られても、俺は嬉しかったんだ。
感情を露わにして怒りをぶつけるということは、少なくとも俺はそれに値すると信用されているに違いない。
あまり感情の起伏が激しくない香澄は、家族や親友には本心を明かさず、この俺だけに心の闇を打ち明ける。
「大丈夫、俺がついてるから」
そう励まし続けても、香澄は泣き喚く。
「私は片方の乳房がないの。そんな相手を、あなたは愛せるっていうの?無理でしょ?どうせ捨てられるなら、今すぐ出て行ってよ!」
女としてやるせ無さも、俺は真っ正面から受け止める。
「それじゃ訊くけど、もし俺が歩けなくなったら、香澄は俺のことを嫌いになる?その途端に、俺のことを捨てる?」
「それは…」
「たとえ乳房が無くなっても、右腕が無くなっても、目が見えなくなったとしても、俺は香澄のことを愛してる」
これがプロポーズとなり、まだ治療中だった香澄は倉科から永瀬になった。
永瀬香澄となり、俺の妻となったんだ。
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