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それから2年間、俺は懸命に香澄を支えてきた。
とはいっても体調を気遣うくらいで、病がおとなしくなったこともあり、夫婦で穏やかに過ごせている。
一途で献身的な妻が醸し出す、柔らかな家庭。
夫である俺は外でしっかり働き、愛する妻が待つ家に帰っていく。
そんな緩やかな波のような、心地良い暮らし。
「課長、これ頼まれていた資料です」
部下から手渡されたファイルを受け取った。
日常生活の平穏は、そのまま仕事にも良い影響を及ぼす。
俺は会社では、頼り甲斐がある課長として部下を取りまとめる。そして彼らも、俺がか弱き妻を全面的にバックアップしているのを知っているんだ。
「課長?どうかしましたか?」
「ん?」
「なんだかぼんやりしてるような気がしたんで」
「いや、なんでもない」
笑って誤魔化したが、どうやら表に出ているらしい。
実はずっと、気がかりだった。
今頃、採血でもしてる頃だろうか?
それとももう、診察が終わっているかもしれない。
連絡がないということは、なにも変わらないという証か?
だからいつも通り、このまま仕事を終わらせて仲良く映画を楽しめばいい。
頭を占めているのは、香澄が受けている検診のこと。
あえて触れないほうがいいと承知しているが…。
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