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「──もしもし?香澄?検診どうだった?問題ない?」
結局、どうしても我慢ができず、香澄に確かめる。
すぐに異変を感じた。
電話を通じて伝わってくる、息が詰まるような緊迫感。
『…浩二さんっ』
香澄の声は、空気を求めて喘いでいるようで…。
「香澄?どうした?何かあったのか?香澄っ?」
しかし返事がない。
「もしもし?香澄、今どこ?すぐに行くからっ」
『浩二っ…』
「病院でなんか言われた?」
『帰ったら話す』
一方的に切られてしまい、その場で固まってしまう。
ただならぬ剣幕に、オフィスが凍りついている。
「…課長?」
「すまない、今日はもう帰る」
俺は今、真っ青な顔をしているはず。
事情を理解している部下たちからは、気遣う視線が向けられている。
慌ててオフィスを飛び出し、車に乗り込む。
妻は泣いていた。
俺は、香澄の頑張りを一番よく分かっているつもり
だ。
生きるために歯を食いしばり、病に打ち勝った妻を知っている。
涙で声を詰まらせる理由なんて、一つしかない。
考えられるのは、一つ。
『転移』をしたのだろう。
この2年間、なんともなかった。
二人で力を合わせて立ち向かい、そして夫婦で幸せに暮らしてきたというのに…。
あぁ、なんてことだ。
なんてことっ。
あぁ…あぁあああ!
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