【この花言葉を妻に】

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俺は、この瞬間を待ち侘びていた。 沈静化した病魔が再び暴れ出し、香澄の命を蝕むその時を。 それまでは、妻を愛する完璧な夫を演じる必要があったんだ。 なによりも香澄の健康を最優先し、労わり、暖かく守り抜く。分かりやすい愛情表現で周囲にアピールをする。 病弱のパートナーを伴侶に迎え、身も心も尽くして支えているのだと。 誰の目から見ても、優しくて思いやりに溢れていなければならない。 そうすればまさか、実は死が訪れることを心の底から望んでいるとは、誰も思わないだろう。 俺の目に、永瀬香澄は人として写ってはいなかった。 いつか死にゆく、金のなる木。 だからこそ、俺は香澄を愛してる。 それはもう、体の芯から。 ようやく、2年間の『辛抱』が報われる時がきたんだ。 下らない、俺にとってはどうでもいい結婚生活。 やっと、終わりを迎えることができる。 軽やかに車を走らせていると、自然と鼻歌が混ざっていた。 マンションの駐車場に着くとかかってきた電話は、まるで終焉を予期しているかのようで。 「…願いが叶った」 そう呟くと、相手が何かを捲し立てているが、ふと込み上げてくるものがあった。 フッとしたものは、やがてクククッと形を変え、そして堪えきれなくなって笑い上げる。 抑えようとすればするほど、笑えてきてしまうではないか。 すると何かを察したのか、女の声が俺に愛を乞う。 「もちろん、俺も愛してるって」
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