【この花言葉を妻に】

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よしっ! 静かにガッツポーズをする。 あれはただの転移レベルではない。 きっと『余命宣告』もされたはずだ! とはいえ、さすがにそのことを切り出すのは憚られた。 もう少し落ち着いてからでも構わないだろう。 心配のあまり、病状を正確に把握しておきたいとでも言えばいい。近々、主治医の元を訪れるとして…。 冷蔵庫を開けて、缶ビールを引っ掴む。 今、アルコールを口にするのは問題ないか? まさか俺が祝杯をあげているとは思わないはず。 愛する妻が重たい病に襲われて、気持ちのやりどころに困った末のやけ酒。 「あぁっ…!」 美味い!と叫びそうになり、慌てて口を押さえる。 それでも顔がにやつくのを止められない。 ここで香澄にバレたら、元も子もないんだ。 俺が我慢に我慢を重ねてきた2年間が、ムダになってしまう。 いつどんな時も妻の要求に応え、自我を抑え込んできた。 それも全ては『死』を待つため。 それなのに、日増しに顔色が良くなり元気になっていく。 予想を大きく裏切っての、円満な夫婦生活。 『おはよう』 『行ってきます』 『ただいま』 『あっ、美味い』 『今日も綺麗だ』 『体調はどう?』 愛しの妻に声を掛けながら、俺はいつも思っていた。 一体、いつ死ぬんだろう? と。
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