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俺の願いとは裏腹に、どんどん健康を取り戻していく香澄。
そんな妻に愛を囁きつつ、恨めしい思いを募らせていく。
お義理でしかないセックスをした後、幸せそうに眠っている寝顔に『早く死ね』と繰り返し呪詛を吐き続けた。
それでも、なんら異変は起きてはくれない。
いらいらと頭を抱えた俺は、ありとあらゆる手立てを講じる。
『死』にまつわる置き物を買ったり、あまり体に良くない食材を勧めたり、なんとか自らの手で吉報を引き寄せようと、そのうちの一つが『花』だ。
不吉な花言葉を検索し、験担ぎとして打ってつけのものを見つけた俺は、いそいそと白い花を買い込む。
白くて可愛らしくて儚げな、スノードロップという名の花。
「可愛いお花」と、大事そうに胸に抱く香澄は気づくはずがない。
この花に隠された、本当の意味なんて──。
俺は撫でるように、功労者であるスノードロップに触れる。
感謝の意味を込めて…。
呪(まじな)いが成功したんだ。
こいつの花言葉は『あなたの死を望みます』だった。
俺の願いが通じ、現実となった今を存分に味わう。
この2年間の苦労が実った、最高の瞬間。
悲しみに押し潰されて眠っているであろう香澄を、もう少ししたら励ましに行こうか。
拒絶されても、暖かく包み込んでやらなくては。
俺は最高の、そして理想の夫なのだから。
でも、その前に──寝室に向かって静かに手を合わせた。
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