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私___倉科香澄には、8つ歳が離れた妹がいた。
明里と名付けられた妹は、その名の通り明るい笑顔を振りまく太陽のような子。
両親が離婚をし、母親に引き取られた私たち姉妹の生活は困窮を極めたが、歳の離れた妹の面倒を見るのは苦ではなかったんだ。
いつもどんな時も、姉である私の側を離れない小さな幼子。
母親が病気で亡くなったあとは、必然的に私が母親になるしかなく…妹を育てるために必死でやってきた。そうするしかなかったからだ。
後悔はない。
自分のことを二の次にし、諦め、明里を育て上げたことにはなんら不満もない。あの子の眩しい笑顔を見ることは、私の喜びだ。それは完全に、姉ではなく保護者になったということ。
あの子の幸せが、私の幸せそのもの。
全ては、あの子の為だ。
でも、ようやく手が離れてこれから自分の幸せを手繰り寄せるという時にふって湧いたのは──。
「乳がんです」
それは、大きな病魔。
もしかしたらと予期していたとはいえ、ショックは計り知れない。
私が一体、なにをしたというの?
妹のために死に物狂いで頑張ってきた答えが『これ』なのか?
「お姉ちゃん…お姉ちゃんがどうして?どうしてっ」
しかし、私以上に動揺している明里の前で弱音を吐くわけにはいかなかった。
「大丈夫だから」
自分が掛けられたい言葉を、私は妹に与えて続ける。
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