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癌を取り去るため、左の乳房は平らになった。
アンバランスな体が、そのまま心にも反映されていく。
これまで深い恋愛をする暇がなかったが、結婚というものを夢想することがようやく許された矢先の、摘出手術。
片方の乳房を失えばもう、結婚は遠のいていくだろう。
夢にまで見た結婚生活という憧れも、同時に切り取ってしまった…。
そして、そのことを嘆くより先に抗がん剤治療が始まる。
ひょっとしたら、自分は特別で副作用などないのではないか?
治療してしばらく、なんの体調変化もなかったのでホッと息を吐き出した瞬間。
ぐにゃり。
世界がひっくり返ったような感覚は、治療が終わるまで消えることはなく──。
「お姉ちゃん…」
見舞いに来るたびに涙を浮かべる妹を励ますことも、治療の中に含まれている。
けれど、本当は私も叫びたかった。
まだ20代。周りは結婚をし、子どもを産むために病院に世話してもらっているというのに、同じ入院でも私は命を削っているのは、あまりに不公平じゃないか?
そんな心のうちをさらけ出せる相手は、この世でたった一人だけ。
「なんで私がっ?ねぇ、なんで?」
「分かる、分かるよ。でもね、それでも香澄が諦めちゃそこで終わりなの。私がついてる、絶対に治るから。今まで私が嘘ついたことあった?」
落合和美が、目を細めて私を軽く睨む。
たった一人の、大親友だ。
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