【全部、あの子の為】

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香澄と和美。 一文字違いの名前、しかも濁点の有無だけという偶然が私たちをより結びつけ、中学時代からの付き合いが続いている。 どちらかといえば、私とは真逆で躍動的な性格の和美。 正反対だからこそ、こうして甘えられるのかもしれない。 「香澄、私の前では強がらなくていいんだよ?」 「和美…」 「ほら、おいでって」 胸を貸してくれる親友に包まれながら、私は声を上げずに泣いた。 「患者さんてさ、病気だと分かるとなぜか遠慮して内にこもるひとが多いの。でも私、泣き喚くことが一番の特効薬だと思う。だからこうやって、よく胸を貸すのよ」 看護士でもある親友の前では、素直に泣くことができた。 「無事に退院したら、すぐコンパしようよ」 「コンパって…」 「あと一番の良薬は恋だから。恋するとね、嘘みたいに元気になるの。私がとっておきのを探しておくわ」 私とは違い、男性にも臆することがない和美が、茶目っ気たっぷりにウインクする。 思い返せば、辛い時はいつも隣に親友がいてくれた。 姉として妹を支える私の後ろで、そっと寄り添ってくれるかけがえの無いない存在に、どれだけ励まされただろう。 そして和美は、本当に私の元に運んで来てくれたんだ。 運命のひとを。
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