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「香澄は、香澄だ」
ハッと顔を上げる。
「それ以外の何者でもない。両親を亡くしても立派に妹を育て上げて、病にも立ち向かう勇気を持ってる。騙されたと知って、あいつらにやり返した。俺の知ってる香澄は──とんでもなく強い女だ」
消えかけていた『私』という輪郭が、優希の言葉によって再生されていく。
決して私は無ではなく、誰かの娘であり、誰かの姉であるのだと。忘れてしまいそうだった、大切なことを思い出させてくれたんだ。
「でも、復讐をやめるのもいいんじゃないか?」
意外な提案に、驚いて優希の顔を見つめる。
「えっ、でもそれじゃ…友子さんの無念だって」
「あいつはもう笑ってるよ。それよりも、自分と同じ境遇の香澄が幸せになるほうを選んでるはず。俺の妹はそういう奴だ。俺の自慢の妹だからな」
やや照れ臭そうにして胸を張る姿を、可愛らしく思えた。
「それに保険金の受け取りを変えれば、あいつらが金を手にすることはない。離婚をして逆に慰謝料を請求してやれば充分、復讐を果たしたことになる」
「それで…終わり?」
「あぁ。それに自分が幸せになってもいいんじゃないか?それがなにより、あいつらへの復讐になる」
私が幸せになることが、何よりの復讐?
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