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「えっ、転移って…」
見る見るうちに、和美の顔から血の気が引いていく。
太陽のような笑顔を曇らせ、翳らせてしまったことを申し訳なく思うと同時に、重たいものを吐き出したことで安堵したのか、私の目から涙がスーッと零れていく。
「医者はなんて言ってるの?ねぇ、まさか余命なんて言われてないわよね?」
「それは…」
「嘘でしょ!?」
目に涙を溜めて、和美が下唇を噛み締めていた。
私が病に冒されると、同じように痛みに耐え、やがて病を克服すると、自分のこと以上に喜んでくれた。
顔を背けたのは、涙が流れてしまったからだろう。
けれど、さすが命の現場で戦う看護士だけのことはある。
大きく息を吸ってこちらに向き直った和美の目には、もう涙は浮かんでいない。
「ちゃんと話して。主治医になにを言われたのか」
「うん…」
「場合によっては、セカンドオピニオンを受けてもいいかもしれない。余命宣告されていた患者が、他の医師の手で助かったなんて例は、吐くほどあるから。だから諦めちゃダメ」
言い聞かせるように、私の手を強く握った。
それだけのことで、本当に大丈夫なんじゃないかと思えてくるのは、それだけ私がこの親友のことを信じているからだ。
心から信じているから、あのことを相談したい。
もしかしたら、浩二が不倫をしているかもしれないと。
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