【全部、あの子の為】

7/14
前へ
/408ページ
次へ
「えっ、転移って…」 見る見るうちに、和美の顔から血の気が引いていく。 太陽のような笑顔を曇らせ、翳らせてしまったことを申し訳なく思うと同時に、重たいものを吐き出したことで安堵したのか、私の目から涙がスーッと零れていく。 「医者はなんて言ってるの?ねぇ、まさか余命なんて言われてないわよね?」 「それは…」 「嘘でしょ!?」 目に涙を溜めて、和美が下唇を噛み締めていた。 私が病に冒されると、同じように痛みに耐え、やがて病を克服すると、自分のこと以上に喜んでくれた。 顔を背けたのは、涙が流れてしまったからだろう。 けれど、さすが命の現場で戦う看護士だけのことはある。 大きく息を吸ってこちらに向き直った和美の目には、もう涙は浮かんでいない。 「ちゃんと話して。主治医になにを言われたのか」 「うん…」 「場合によっては、セカンドオピニオンを受けてもいいかもしれない。余命宣告されていた患者が、他の医師の手で助かったなんて例は、吐くほどあるから。だから諦めちゃダメ」 言い聞かせるように、私の手を強く握った。 それだけのことで、本当に大丈夫なんじゃないかと思えてくるのは、それだけ私がこの親友のことを信じているからだ。 心から信じているから、あのことを相談したい。 もしかしたら、浩二が不倫をしているかもしれないと。
/408ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1718人が本棚に入れています
本棚に追加