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直接、本人を問い詰めることはできなかった。
「香澄、俺がついてるから心配ない」
そう言って、これまでのように励ましてくれる夫に不倫を問いただせと言うのか?
それは即ち、私に掛かる温かな言葉や眼差しが、全て偽りだということになる。
ただでさえ転移で深い闇に落とされたというのに、足元から世界が覆るような事態は避けたい。要するに、怖かったんだ。
「…香澄?」
和美の声に我に返った私は、そのままの勢いで口を開く。
「浩二さんのことなんだけど…」
「浩二?」
「もしかしたら、不──」
「お姉ちゃん?」
カフェにやってきたのは、妹の明里だった。
「明里…」
「和美さんと一緒だったんだ。なに食べよっかなぁ?」
メニューを開いて真剣に悩んでいる姿は、微笑ましい。
「明里ちゃん、仕事のほうはどう?」
「時期的に忙しくて、なかなか資格を取る勉強ができない…っていうのは言い訳か。お姉ちゃんに大学まで出してもらったんだから、頑張って恩返ししないと」
夢だったインテリアの会社に就職して2年、コーディネーターになるべく精進しているようだ。
そんな眩しい日々に影を落とすのは本意ではないが──。
「大事な話ってなんなの?」
「それは…」
言葉に詰まった私は、和美と顔を見合わせる。
「えっ、なに?まさか離婚とかじゃないよね?」
「明里、ごめんね」
「なんでお姉ちゃんが謝るのよ?」
「ごめん…」
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