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謝ったはいいが、それ以上は言葉が出てこない。
「どういうこと?ねぇ、どうしたのよ?」
「明里ちゃん、私から説明する。香澄ね、癌が肺に転移したんだって。でも、きっと大丈夫だから。また前みたいに乗り越えられるはず」
大きく見開いた目から涙が落ちる前に、明里は両手で顔を覆う。
押し殺したように肩を震わせていたが、次第にしゃくり上げ、堪えきれないように声が漏れ出す。
それは、とても切ない嘆きだった。
「明里ちゃん、あなたのお姉ちゃんは誰より強いでしょ?親が離婚した時も、お母さんが亡くなった時も、香澄は負けなかった。そのことは明里ちゃんが一番よく分かってるはず」
私の代わりに妹の肩を抱いてくれる、有り難い親友に向けて頷く。
きっと私だけでは、爆発しそうな悲しみを受け止めることはできない。そう判断して、和美に同席してもらうことにしたんだ。
「今日は明里についてるわ」
少しして落ち着くと、すぐにカフェを出ることにする。
「私も行くわよ」
「ううん、大丈夫。和美、夜勤だって言ってたでしょ?」
「仕事なんかどうだっていいわよ!」
「でも、和美のこと待ってる患者さんが居ると思うから。和美はね、苦しんでいるひと救えるんだよ。だから行ってあげて」
「…分かった。とにかく、私がついてるから。それに、香澄は守ってくれる心強い旦那もいるんだからね」
そんな親友の言葉に、私は曖昧に微笑むしかなかった。
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