【私の余命はあと…】

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「な、良くない?」 浩二は靴を履く瞬間まで、そんな夢物語を口にする。 「はいはい。まずは開業資金を貯めるためにお仕事を頑張ってきて下さい」 「おいぃ、現実に戻すなよー」 「でも、出来たらいいね」 「だろ?のんびり暮らせばさ、体にも良いし」 結局のところ、夫は私のことを気遣ってくれているんだ。 「今日は検診だろ?それじゃ、映画館の待ち合わせでいい?」 「うん、それでオッケー」 定期検診の日は、レイトショーを観るのが恒例となっていた。 それだけじゃなく、私たちはデートを欠かさない。 それは結婚して2年が経った今でも『行ってきますのキス』をするくらい、愛し合っているからだ。 「じゃ、後で」 その目が一瞬だけ光った気がしたが「うん、後でね」と、スルーする。 今、大事なのは普段通りにすること。 なにも恐れることなんかない。 私には最高の夫がついている。 浩二を送り出すと、すぐに掃除に取り掛かった。 ひと通り拭き終えると、花瓶に活けてある白い花に水を与え、その花びら一枚一枚に触れていく。 確か『スノードロップ』という名の花だと言っていたっけ。 よく咲いている。 匂いを嗅いで、臆面もなく妻に花を贈る夫の愛を吸い込む。 よし、気合いが入った。 マンションから出る私の足取りは、走り出しそうなくらい軽かったんだ…。
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