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いくつもの咳払い、ストレッチャーの音、忙しなく駆ける喧騒。
病院には、いつ来ても慣れない。
独特の匂いと、狭まってくるような空気感。
予約をしていても、呼ばれるまでかなり待つ。
文庫本を開いて物語を追いかけるも、いまいち頭に入ってこなかった。
子どもが走り回っているからか?
ぼんやりと幼児を眺め、子どもが欲しいと切に思う。
はっきりそう口にしたことはないが、浩二のほうでも私の体を気遣っているのが分かる。果たして、私に産めるだろうか?
たとえ産み落とせたとしても、もし風邪でも引いた日には生きた心地がしないかも。
でも、心配はないか。
夫さえついていてくれたら、何も恐れる必要なんてない。
私が今、こうして自分の足で立っていられるのも、献身的な夫の励ましがあったからだ。
健康でいることを実感し、改めて夫婦となれたことを幸せだと思う。
「永瀬さん。永瀬香澄さーん」
名前を呼ばれて血液検査とCTを撮るが、小慣れたもの。
その後、私の手術を担当してくれた50代の主治医と向かい合った。
今しがた撮ったばかりの『私自身』には、どこにも不審なものは見当たらない。
これまで見てきた、いくつもの私と同じように見える。
いや、同じだろう。
ホッと息を吐くと、私と目が合った主治医が口を開く──。
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