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「ここ、分かりますか?この肺の部分に──」
剥き出しの画像を差して説明する医師の言葉が、どんどん遠のいていく。
かわりに浮かんできたのは、2年前のあの日。
私はあの日を、忘れはしない。
昨日のことのように思い出す。
胸のしこりに気づき、もしかしたら『乳がんかも?』と疑っていたにもかかわらず、医師から告げられた瞬間、膜が張ったように何も聞こえなくなった。
きっと、突きつけられた現実を受け入れることができなかったんだ。
そして気づけば病院の外にいて、自分が自分じゃないような感覚は、後にも先にもあの時だけ。考えること、考えないといけないことは山ほどあるのに、思考がストップして…。
次に我に返った時にはもう、手術着を着ていた。
そこから始まった、この世のものとは思えない苦しみ。
地獄は地獄でも、生き地獄だ。
それならいっそ死んだほうがいいと何度、そう思ったとこか。
でも、病を抱えて死に直面したというのに、悪いことばかりではなく…私が結婚をしたのもその頃。
生涯の伴侶をえて、病を克服し、それから癌には打ち勝ったと思っていたのに──。
ふと夫の優しい顔が浮かび、私は主治医に尋ねていた。
「先生、私の余命は…?」
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