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カンカンと釘を打つ
「ふぅ、だいぶ暗くなったな」
夏の夕日を見る明香、とび職で、重い木材や鉄骨などを運んでいるとは思えないほど小柄で猫のような顔をしている明香は今や実力を認められて職人として扱ってもらっている
「おーい!明香!そろそろ上がるぞ!」
「はい!すぐ切り上げる!」
明香がそう言って、仕上げをして立上がった時だった。
「なんで・・・・・」
振り向くと、棟梁の息子がいる、棟梁の息子と言っても技術も拙く、不器用で明香よりも力がない、こんな高所に呼ばれるはずが無いのだが
「どうしたんだ?あぶねぇじゃんこんなとこ、さっさと降りるぞ?」
明香の言葉に顔を真っ赤にして棟梁の息子は手を振り上げ、明香を殴る
「なんであいつなんだよ!」
「明香!!!」
殴られた勢いで明香は足場から落ちる、足場の手すりも何故か脆くなっていたようで支えられることは無かった。
落ちながら元いた場所を見れば蒼白の棟梁の息子と手を伸ばす必死な婚約者が見えたのに、何かに飲まれる感覚がして目を閉じる
開けた時には水の中だった。
(嘘だろ!水なんかあったか!?)
どんどん深くなる、身体を動かしたいのに動かせない、息を吐いてしまって、肺に水が貯まる
(あ、俺、死ぬのかな)
やっと職人として認められて
婚約者もできて、順調だったのに
こんな風に死ぬなんて
(あんまりだ・・・・)
金色の髪の天使を見ながら明香は、意識を手放したのだった。
目が覚めるとまるで王宮のようなベッドで寝ている
「夢?」
頭が重い、身体がだるい、まぁあんな高さから落ちて大量に水を飲めば当たり前か
「おや、起きたんだね」
ヒョコッと顔を覗かせる金髪にエメラルドグリーンの目の柔らかい顔の青年、
「天使?」
「・・・・・・・」
言ったあとに何か違うと思った。少し出ている牙のような八重歯と耳はドラゴンの羽のような
(え?コスプレ?)
「あはははははははは」
青年は突然笑い出す
「天使、天使か!初めて言われたな」
ガバッと明香は、身体を起こす
(まさか!転生者!?死んで転生した!?)
「あ、あの、鏡、見たいんですけど」
青年にそう言うとニコッと笑う
「ん?いいよ、おい、鏡を持ってこい」
青年が後ろの猫のような侍女らしき人に言う
侍女は冷や汗をかきながら、鏡を持ってくる
(まずった、傍若無人系の悪女だったか?)
とりあえず明香は、ありがとうと受け取ると、侍女は安心した顔をする
(あれ?俺に怯えたわけじゃない?)
とりあえず明香は鏡を見る、顔にも髪型にも変わりはない、黒髪は肩口までの長さで、黒い目も変わらず、不良少年のような顔と称される猫目も健全、変わっていることといえば
「何だこの服!!!!????」
あまりに不似合いな真っ白のひらひらの襟元、ちゃんと服を見るとヒラヒラふわふわ、どっかのお貴族様の幼いご令嬢ですか?とでも言いたくなる服を恐ろしくも前世のそのままの見た目で着ている
(ひいいいいい!!き!気持ち悪い!この年で!?)
明香が顔を引きつらせると青年が心配そうに言う
「もしかして人間の女性はそんな服は着ないのかい?」
明香は顔を引きつらせながら言う
「い、いや、そんな事は無いんですけど、私には不釣り合いな服かな?って」
恐る恐る明香がそう言うと、青年は、顔をパッと明るくさせて笑う
「そんな事は無い!とても愛らしくて抱きしめたいほどさ!」
(うっわ、イケメンの笑顔、えぐぅ)
と思って乾いた笑いを漏らしながら周りを見るとみんな騒然とした顔をしている、
(え?何、その信じられないものを見る目、は!まさか!)
「あの、もしかして、お、王族のかた?」
明香の質問に青年はキョトンとしてニコッと笑う
「君はイルミナスの湖の事を覚えてないかい?」
(イルミナスの湖?)
「え、っと湖か何かは知らないですけど、溺れてあなたらしき人に助けられた気はします」
明香がそう言うと、青年はまた、パァッと顔を明るくして言う
「そうだよ、僕が助けた。王族が溺れた人を助けると思うかい?」
明香は考える、物語とかでは割とありきたりな展開な気もするが、大概は騎士とかの役割のはずだ、てか普通に王族なら止められるしわざわざ自分で泳いで助ける必要は全く無いなと言う結論に至る
「無いですね、王族なら護衛とかの騎士に頼めば良いですし、わざわざ自分で助ける理由も世話してる理由もないですよね」
と、明香が言うものだから、周囲に居る侍女や使用人、騎士っぽい人が大きく頷く
(あ、間違ってないのか)
青年は明香の言葉に、にこぉっと笑う
「私はパース公爵、力だけ王族並みに強いからと騎士称号を持った平民上がりの授かり爵位なんだ★」
「公爵・・・・・公爵!?」
(公爵って自分で行くもん!?あ、でも騎士の位持ってたら行くのか?それに平民上がりだしな、え?平民上がりで公爵???でもこの世界は獣人の世界線みたいだし弱肉強食で力重視なのか?)
明香が色々考えている姿をニコニコとそれはそれは楽しそうに見る青年を見ながら
従事達の心は一つになる
(((違います、その人はこの国の皇太子です!!!!!!)))
神聖ドラコニア帝国、ドラゴン獣人が治める帝国の聖なる儀式に降ってきた一人の人間は、皇太子、パストル・レースン・ドラコニアの愛玩動物になるのだった。
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