パストル皇太子

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パストル皇太子

白亜の女神の日、パストルは皇太子として、この国1番の魔力保持者として 女神の湖イルミナスで清めの儀式を行う事になっていた。 そうして湖のある山のふもとまで馬車に揺られている 「つまらないな」 「皇太子殿下、声に出してはいけません」 幼馴染で執事のアクセラにたしなめられる チラッとアクセラを見るといつも通りのしかめっ面、 人前での弱音や冗談すらも許してくれない幼馴染は本当に頭が堅い 「そうは、言ってもアクセラ、説経を聞いて血を1雫流したら水をかぶるだけだぞ、つまらないだろう」 「その後の舞踏会でも楽しみにしていてください」 ハァとため息をつくアクセラにパストルはしかめっ面をする 「僕の地位と美貌を欲しがるくせに、影で化物扱いしてる奴らをか?」 「はぁ、パスト、落ち着けよ、お前は皇太子なんだ、世継ぎもお前の仕事だ、そろそろ俺も長老達を抑えるのはきついんだ、アカデミーで適当なのでも捕まえて、放置しとけばいいだろう」 「適当なの・・・・ね?・・・・」 アクセラは、パストルの顔を見てゾクッと悪寒が走った 笑っているが笑っていない憎しみのこもった笑顔 「お前の女嫌いは筋金入りだな」 アクセラは眉間のシワをほぐすように指で押さえながら何度目かわからないため息をつく 「あんなものを好きになれるのか?」 「カトリアナは軽蔑してないじゃないか」 「あいつはお前一本だろ、下卑た目はしてないからマシだ」 「マシかよ」 「ああ、マシだ」 窓の外ばかり見る幼馴染を見て、アクセラは将来が不安になる 「まぁ、お前は女より剣が似合うよ」 「ルーモリア以上に俺を惹きつけるものは無いだろうな」 ニヤッと笑い聖剣であり、皇帝からパストルに下賜された剣にキスを落とすパストル はぁとアクセラがため息をつくと馬車が止まる そして侍従が馬車の扉を開ける 「皇太子殿下、アクセラ伯爵閣下、神殿に着きました」 「わかった」 アクセラが返事をして馬車を降りる、 そして、侍従とアクセラが馬車の左右で頭を下げた時にパストルが出てくると、青年の声が聞こえる 「パスト!よく来てくれたね!」 両手を上げて抱き着こうと駆け寄る教皇をパストルはサッと避ける 教皇は空気を抱いて口を尖らせてパストルを見る 「酷いな、親友を避けるなんて」 「公の場ではそれ相応の立ち振舞をすべきだと私は思うのですが、いかがですか?」 パストルの鋭い視線に周りの騎士や侍従、神官たちは縮み上がって青い顔をしている 「それもそうだね、」 そう言って教皇は姿勢を正して軽く頭を下げる 「皇太子パストル・レースン・ドラコニア殿下、よくぞお越しくださいました。女神の日の清めの儀のご協力、女神イルミナスに代わってお礼申し上げます」 教皇の丁寧な挨拶の対してパストルは剣を取り出し自分の前にかざす 「白亜のドラゴン、女神イルミナス様にこの身の一部を捧げられることの喜びを噛みしめ、清めの義を受けることの感謝を捧げます」 パストルがそう言うと一瞬、聖剣が輝いた。 それを確認して教皇が頭を上げる 「では、イルミナスの湖に参りましょう」 教皇が神官達と足を勧めて、それに続けてパストル達も神殿に向かう 荘厳な神殿は異世界なのかというほど白く明るく影さえも浮かばない、所々にある金の装飾だけが世界に色を付けている 「毎年来ますが、白亜神殿は影すら無いので少し気が滅入りますね」 パストルが皮肉を言えば教皇が笑う 「白亜の世界に影など必要ないと言う事でしょう、神殿に光の魔法を施したのはイルミナス様だと言う伝説もありますからね」 「そうでしたね」 一行はそれ以上の話をするでも無く奥に進む、すると大きな扉が出てきて、神官がその扉を開けると誰も干渉していないと思える森に一つだけ人の手を感じるレンガの道が走っている、そこを歩いていくと広い草原の奥に大きな湖が現れてその前に祭壇が置かれている。 そこに向かう途中に教皇とパストル以外は左右に別れて膝まずき、頭を垂れる パストルと教皇が祭壇の前に付くと、パストルはまた刀を目の前に掲げて 教皇はひしゃくで湖の水をすくった後、祭壇にある貝殻の隣に並べてパストルの方に振り向き手を合わせる 「白亜のドラゴン、女神イルミナスの名の元に聖なる力を使い、聖獣界を守ると誓いますか?」 「はい」 「その身にある穢を拭い、イルミナス様の偉大さを伝えますか?」 「はい」 「では、その身の証を捧げ、身体を清めよ」 「はい、教皇様」 説経が終わって、パストルが顔を上げた。 周りの神官や騎士や侍従も顔を上げてパストル達を見た時だった。 空が雲に覆わたと思ったら真ん中がポッカリと空いて、虹色に光る空から人が落ちてきた。 パストルは その人に釘付けになった。 消して美しいとは言えない服を着ているのに、輝いて見える彼女を捕まえたくて、 パストルは自分も気が付かないうちに走っていた。 「パスト!」 「パスト!やめな!」 「「「殿下!!」」」 パシャンと湖に入って真っ直と溺れる彼女に泳いでいく 力が抜けたような彼女の目は黒曜石のように美しく、林檎のように赤い唇は夜空のような髪に似合っていて、ギュッと抱きしめた。 (僕のだ) そう思ってパストルは、彼女を強く抱き締めて岸に向かって泳いだ。 岸に上がったら大騒ぎだった。 神祭に起こった神秘的な現象に落ちて来た人は、伝説の存在である人間に酷似していて、それを助けるために帝国の皇太子が湖に飛び込んだのだ、騒ぎにならない方がおかしいし、もっと大変だったのが、人間の救命処置を皇太子が自らすると言って周りを黙らせた。 結局、彼女の肺から水を出させたのも心臓マッサージや人工呼吸をしたのもパストルで、神官達は服を用意するしかできず、皇太子の服は執事のアクセラが魔法で乾かした。彼女は、パストルの救命処置のおかけで息を吹き返した。 それでも目覚めることはない彼女をパストルが抱えあげる 「この人間は王宮で保護する」 「パース、その子は聖女の可能性もあるよ」 教皇の言葉に嘲り笑うような顔を向けるパストル 「それが?」 パストルの言葉に教皇は笑う 「まぁ、聖女が生娘でなきゃいけないわけじゃないからね」 「教皇聖下!お言葉が!」 枢機卿が震えながら教皇をたしなめる パストルはそんな会話など気にせずに神殿の方に歩いていく 「あぁ、ごめんごめん、でも、親友としては初めての春を応援したいけど・・・・教皇としては・・・ね、、、さてどうしようかなぁ」 ニコニコと楽しそうに教皇は慌ててパストル達を追いかける騎士や侍従を見るのだった。 パストルは城についてすぐに、皇太子妃の部屋に彼女を連れて行った。 遅れてきたメイド達が慌てて彼女を受け取ってバスルームに連れて行く メイド達を待っている間に途中で買い物を頼んだアクセラが部屋に来る 数着の子供服から白くてフワフワヒラヒラのしたものを選んで近くにいたメイドに渡す、その後に白いふわふわヒラヒラの服を着て運ばれてきた彼女を微笑んで見るのでそれを見て固まったメイドから彼女を受け取ってベットに寝かせる 「アクセラ」 「聞きたくない」 「僕、この子を皇后にするよ」 今日一番の大きなため息をするアクセラ 「神殿が黙ってると思うか?」 「気にすることはないだろ、あれが教皇だしな」 なんだか頭がズキズキするような気のするアクセラは頭を抱える 「適当に選べとは言ったけど、聖女どころか伝説の人間だぞ!?人間は、繊細で脆いのにお前が壊さない自信あるのか!?」 「壊さないさ、こんなに綺麗なものを・・・壊せるわけ無いだろう」 パストルから聞けるとは思わなかった言葉にアクセラは、身震いする なぜだろう、湖に入ったのはパストルなのに自分の方が寒気を感じていてパストルは火照っている、これは夢だろうか。 「お前が恋をすると気持ち悪いんだな」 「恋・・・・そうか・・・・僕がね・・・・クククッ、アクセラ、人生何が起こるかわからないな」 それはそれは愛おしそうに人間を撫でるパストルに周りは気味の悪さを感じている まさか冷徹皇子が慈しむ心を持っていたとはと思う中、アクセラは、幼い時のパストルを思い出す (そういや、あんな顔もできるんだったな。長い間忘れていた。あの日から笑わなかったからな) アクセラが感傷にひたっていると、彼女が目を開いた。 「夢?」 パストルがすかさず顔を覗き込む 「おや、起きたんだね」 パストルがそれはそれは優しく彼女を見るので、周りはなぜかアクセラを見る あれは誰ですか?とでも言いたい顔だ そこに彼女の思わぬ言葉が飛ぶ 「天使?」 天使?冷徹皇子、戦場の覇者、無慈悲の神と言われるパストル・レースン・ドラコニアが?天使? その言葉に笑ったのはパストルだった。周りは困惑しているのにパストルは、楽しそうだ。 「あ、あの、鏡、見たいんですけど」 彼女に鏡を頼まれてパストルはメイドに鏡を持って来させる すると彼女は、自分の服を見て顔を歪ませる ((((嫌だだたんだなぁ)))) 明らかに引いている顔に全員が思った。 まぁあまりにも幼稚すぎる服だと思うのでアクセラは、 パストルに衣装見本を色々見せようと思った。 「あの、もしかして、お、王族の方?」 ちょっと怯えて彼女が言うものだから何を思ったのか、パストルは思わぬことを言う 「君はイルミナスの湖の事を覚えてないかい?」 パストルの質問に、彼女はパストルに助けられたことは覚えていると言った。 「そうだよ、僕が助けた。王族が溺れた人を助けると思うかい?」 パストルの言葉にアクセラは、イラッとした。 (わかってんなら、飛び込むなよ!!!) そして、彼女は、少し考えて答えを出す 自分で助けたり世話したりは王族がするはず無いと言うのでみんな頷いた。 その様子に彼女は、少し落ち着いた顔をするが、次のパストルの発言に全員が唖然とした。 「私はパース公爵、力だけ王族並みに強いからと騎士称号を持った平民上がりの授かり爵位なんだ★」 (嘘つけ!皇帝と前皇后の間に生まれた生粋の王族だろうが!!!!) アクセラは怒鳴りたいのを我慢するパストルが久しぶりにとても柔らかな表情をしているからだ、何を考えているのか、必死に悩む彼女を慈しみの目で見るパストルに少し好きなようにさせようと思ったのだ ひとしきり彼女の姿を堪能してパストルは彼女に言う 「ところでお名前は?」 パストルのお名前発言に全員鳥肌が立つ 「え、あ!明香です、」 「へぇ、メイカ・・・・」 明香の名前を聞いて体に染み込ませるように胸を抑えて目をつぶりつぶやくパストル、騎士達が医者を呼ぶか話し合っていることにも気が付かない 「素敵な名前だ、」 「あ、ありがとう、ございます?」 たじろぐ姿さえも可愛いと愛でるパストル、 しばらく色々と話して居たら神殿の神官が来て、 翌日、身体測定と、聞き取りと、この世界のことを説明して、もとの小世界のことを質問したいと言う話をしてきた。 パストルはそれに付いていくと言った。 明香は、とりあえず今日は疲れているだろうから、軽い食事を取ったら寝ることになった。 そしてメイド達を残して全員が部屋を出る パストルとアクセラは、二人でパストルの執務室に向う道すがらパストルが口を開く 「アクセラ、明日お触れを出す」 「は?まさか・・・!!」 「明日から、彼女の前では僕のことはパース公爵と呼ぶように、いいね?」 アクセラは、顔を引きつらせる 「それと、僕はしばらくアカデミーには帰らないから、パース公爵を知らしめといてくれ」 「はぁ!?何でそんなめんどくさいことを!?バラしてしまえばいいだろう!!」 アクセラの言葉にパースは、やれやれと首を振る 「メイカは、きっと平民だ、王族かと聞く時に怯えていたし、皇太子何てバレた日には萎縮して自然な姿が見れないかも知らないだろ?それは嫌なんだ」 至極真面目な顔で言うパストル 「だがいつかバレるだろう?」 アクセラの言葉にパストルは笑う 「それまでに惚れさせるさ!メイカは、聖女になるし皇太子妃として申し分ない、惚れてしまえば離れることもできないだろ?僕みたいにね」 アクセラはこけそうになった。 (今こいつなんて言った?) 顔を引きつらせながらパストルを見ればパストルは愛おしそうに月を見ている 「メイカか、古代語の月の名前だなんて面白いね、人間の国でも一緒なのかな、本当に夜空のような女の子だよね」 それはそれは愛おしそうに夜空のような髪の黒曜石の瞳の女の子を思い浮かべている姿は冷徹皇子の氷を溶かしたようだった。 (月と言うより太陽だな) 少し呆れて笑いながらアクセラも月を見た。
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