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闇夜の思惑
パースが屋敷も領地も持たないお飾り爵位だと知ってなんとなく明香の緊張はほぐれた。
この世界の文字は初めて見るはずなのになぜか最初から理解できた。
よくよく考えると言葉も同じなのはおかしい気もする、転生ものだと自然と言葉を話しているから異世界ってそんな物なのかとなんとなく理解しながら、作法や歴史、貴族の事、魔法を学ぶ授業をしている。
パースも忙しいようであまり長い時間は明香との時間を取れないようだ。
久々に自分の部屋で一人で寝れると明香はベットに倒れ込む、この豪華な部屋も最初は落ち着かなかったが今になればだいぶ慣れて唯一落ち着く場所になっている。
「疲れたー」
大きく息を付いてそう言えばメイドの猫獣人のメイミーが部屋着をもって側に来る
「お疲れ様ですわ、メイカ様、お湯が沸いていますわ、お風呂などいかがですか?」
お風呂部屋の方を見れば鳥獣人のフレデリカとうさぎ獣人のミィカルが扉の奥から出てくるところだった。
「そうだね、お風呂にしようかな」
そう言って立ち上がれば、てきぱきとメイミーとフレデリカがドレスを脱がす、昔の服ってなんでこう面倒なのだろうと思いながら服を脱がされる、庶民の服は簡単に脱ぎ着できるが貴族のドレスとなるとコルセットにボーンパニエに胸元三角のストマッカ―と言う部分、背中は縫い合わせないといけないし、どうにかならないかなぁと思いながら脱がされる。
後はシューミーズと言うキャミワンピースのような下着だけになって風呂場に行く、そして風呂場で下着も脱いだら体を柔らかなタオルで丁寧に洗われる、その後、猫足バスタブに張られたお湯の中に入る体の疲れが抜ける感覚を感じているとゆっくり髪にお湯をかけられてヘアオイルを揉み込むようにヘッドマッサージをされ、肩や腕もオイルマッサージされる、贅沢だなぁと感じながら、最初は戸惑っていたこの時間も心地よくなっている、
大方の髪や体のケアが終わるとメイド達は風呂場から出て行き、やっと一人のゆっくりできる時間だ、ゆっくり湯船に浸かってこの一週間を思い出す。
湖に落ちて、フリフリの服で目を覚ましてパースに保護された。
それからは勉強やメイド達に世話されて日本ではありえない贅沢、服のデザインには自分に似合わないのではと言う不満はあるし、可愛い可愛いと周りから言われるのもむず痒い、日本では化物だの不良だのなんだのとまぁ不良は自分が悪いのだが、とりあえず棟梁の奥さん以外から見た目を褒められるのは初めてと言っていい、子供のような可愛がり方とはいえ褒められている事に違いはないだろう、そしてこんなに歴史などを勉強するのは学生ぶりだ、歴史や作法にダンスにと覚えることが多く大変だが、魔法の訓練は楽しい、最近覚えた治癒魔法でヤンキー時代の古傷も消せて足を失くした老兵の足まで再生できた時は魔法ってすごいと思ったがそんなことができるのは前代未聞だそうで、光の精霊の祝福を受けるだろうと周りは大賑わいだった。
聖女になるのは精霊の祝福が必要で精霊は強く清らかな魔力を好むらしいから絶対聖女だと騒ぐ周りの勢いには置いて行かれている気分だ
ゆっくり浸かって体の疲れもとれたところでお風呂から出てシューミーズを着る。
お風呂部屋を出れば、メイミー、ミィカルに部屋着を着せてもらう、フレデリカはベットメイキングをしている。
後はもう寝るだけだ、いつぶりだろうこんなにゆっくり寝れるのは、そう思いながら明香はベットに座る
「では、私達は失礼いたします、御用があれば鈴を鳴らしてください」
「うん、いつもありがとう、おやすみ」
「「「お休みなさいませ」」」
そう言ってメイミー達はミィカルを最後に部屋を出て行った。
大きく広い部屋、大きなベット、久しぶりの一人の部屋でゆっくり休める、とベットに体を沈める、ふかふかの布団ふかふかの枕、サラサラなシーツ、鼻をくすぐる桜の香りは枕下の香袋からだろうゆっくり寝れて安心できるはずなのに、なんだか寂しいような落ち着かないような感覚はここ最近パースに連れられ可愛がられて寝ていたからだろうか、毒されたなぁと思いながら、頑張って寝ようと目を閉じるなかなか寝付けないなぁと思っているとカチッと窓のカギが開く音がする、次いでキーと静かに窓が開いたようだ、明香は勢いよく掛け布団を脱いで起き上がる
「だれ!?」
明香が起き上がれば窓から入ってくる影は動きを止める
「おや?これはこれは起こしてしまいましたか、人間様?」
大きな影が厭味ったらしくそんなことを言う、
厭らしく笑いながら男は明香に近づいて来る、その手には剣を持っている、どうも遊びに来ましたなんて雰囲気ではない、明香は即座に覚えたばかりの風魔法で風の刃を飛ばす、男はさっとそれを避けたと思ったら刃は影を追って切り裂く
「いってっ!」
うまく男の足を切った様で痛みにうずくまる一つの影
「なるほど、魔法は天才的ってのは本当か、おかしいなぁ睡眠薬を盛ってるはずじゃなかったのかぁ?」
睡眠薬?と疑問に思っていれば、男はすぐに体制を立て直し、その剣で襲い掛かってくる、
明香はすぐに魔法で亜空間から剣を取り出す、
ガキンっと激しい金属のぶつかり合おう音がした。
「大人しくしろよ人間、そしたら苦しまないように殺してやる」
「誰が黙って死ぬかよ!」
剣を払いのけサイドテーブルの上にぶつかると机の上に乗っていた物が落ちて激しい音を立てる、するとガチャガチャと扉を開けようとする音がする
「メイカ様!大丈夫ですか!?」
「くそ!なんで鍵が!」
大きな音がすれば人が来ると思ったのに鍵がかかっているなんて、誰がカギなんてかけたの?と疑問に思いながら明香は空気砲で暗殺者を吹き飛ばす、暗殺者はそれを避け少し後ろに引いたときだった。
ガタンと言う音がして風のように誰かが暗殺者に切りかかる、それはパースだ
「うわああああ」
暗殺者から上がる血しぶき、シルクのパジャマに赤いシミが付く、金色の髪に赤が飛び散る。
さっと剣を振り下ろせば、暗殺者の血によって汚れた刃から血が落ちる、倒れる暗殺者を容赦なく取り押える、剣を持っていた暗殺者の腕から鈍い音がすると同時に悲鳴が上がる、そこでようやく部屋の扉が開き護衛兵が入ってくる、その中にメイミーも居る
「メイカ様!!」
部屋に入って来たメイミーに抱き着かれる明香
「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」
駆け寄ったメイミーに怪我がないかを確認される、明香のメイド長であるメイミーの部屋は明香の隣の部屋だからミィカルやフレデリカと違って夜でも駆け付けられる、
「大丈夫、護身用で貰ってた剣で受けたから」
どこから現れたのか返り血で汚れたパースが暗殺者を抑えているところを見る
「パース様はどこから?」
暗殺者を抑えているパースに問えばパースは近衛兵に暗殺者を渡しながら何とも言えない顔で答える
「あー、実はね・・・・僕の部屋と続き扉があるんだよ」
なんですと!?とパースの出てきた方を見れば確かに壁だったところが開いて広いパースの部屋が見える、
「続き扉って皇太子皇太子妃でもあるまいし」
明香の言葉に皆ギクッと肩を揺らす、なんて的確な指摘だろうと皆パースを見る、あまりの的確さにパースも汗ばんでいるように見える
「メイカは特別だからね、守れる部屋にしてもらったんだよ、もともとこの部屋は僕の部屋でもあったから」
「なるほど、パース様の部屋を貰ってたんですね、へー」
きょろきょろ見渡す明香、間違ってはいない、皇太子妃の部屋は妃が決まるまで皇太子の管轄だからだ。だがそれがバレてはいけない、何せ今パストル皇太子はパース公爵なのだから、
だが明香は特に疑うでもなく納得したようで皆胸をなでおろすが一つの心がある。
(もうバラしちゃえよ)
この茶番に皆飽き飽きしているのだった。
そこに暗殺者が声を出す
「は!なんだよ、おうじべぇ!!」
皇子と言う言葉を言う前にパースが暗殺者を殴り飛ばす
「ちょ!パース様!?そいつに話聞かなくていいんですか!?死んじゃいますよ!?」
明香の言葉に、パースは暗殺者を投げ飛ばす
「あぁついね」
「つい!?」
「安心してメイカ、そんな簡単に死んだりしないさ!メイカの言う通り話は聞かないといけないからね、生かすよ」
パースの言う通り護衛の蝙蝠のサラベル、シャチ族のフィルトールが暗殺者を抱えて廊下に出た時だった。ひゅんと何かが飛んできて暗殺者に刺さる、そうすると暗殺者は苦しみだす、
「毒か!死なせるな!」
「「は!!」」
サラベルとフィルトールが慌てて暗殺者を運んでいく、パースは直ぐに廊下の開いている窓から外を確認する、
「ちっ、逃げているか」
明香はメイミーに抱え込まれてよく見えなかったが、暗殺者を口封じに殺した者を探していたようだ
「あ、」
明香はメイミーから飛び出してパースのところに行く
「メイカ、まだ危ないから窓から離れて」
パースに抱きかかえられて窓から離される時に明香はパースに耳打ちする
「暗殺者は私が睡眠薬で寝てるはずだって言ってました」
「何?本当かい?」
パースは明香の言葉に考える
「とりあえず今夜は危ない、明日から警備を強化するとして、今夜は僕と寝よう」
そう言ってパースは明香を部屋に連れて行ったのだった。
翌朝、暗殺者の死亡が秘密裏に知らされた。
「やはり間に合わなかったか、黒幕をしゃべらせたかったんだがな」
そう言いながらパースは明香を抱え込み頭を撫でながら書類を貰う
「睡眠薬、どこに仕込んでたんでしょう」
明香がそうパースに問えばパースがサラベルから貰った書類を見ながら眉間に眉を寄せる
明香はもう可愛がることをやめさせるのを諦め、勝手にさせている。
「香袋に仕込まれていたみたいだ、不眠症でも使うよく出回っている種類の睡眠薬だ、手に入りやすいから経路をたどりにくいな」
「香袋?」
ミィカルが用意してくれた香袋だ、誰がその中に睡眠薬を入れたのか、一番怪しいのはミィカルだが、
考えていると、そのミィカルがメイミーとフレデリカと入ってくる
「メイカ様、朝のお仕度のためお迎えに参りました。」
そう言って3人は入り口で頭を下げて待っている。
それに対してパースがミィカルに質問をする
「ミィカル、昨日の香袋はどこで手に入れた?」
それにミィカルは気まずそうに答える
「それが、皇帝陛下のメイド長様が聖女のお祝いにくださったのですが、何かありましたか?私も本当に使っていいのか悩んだのですが何か・・・・・」
「やはりそうか、今後皇帝、皇后から贈られたものは全て私の下に持ってきなさい、いいな、」
「「「はい、かしこまりました。」」」
皇后じゃ無く皇帝が手を回しているのかと疑問に思う。
とりあえずミィカルの裏切りじゃないと知り明香は朝の準備をしに部屋に戻るのだった。
一方時間を戻して明香が襲われた後だった、暗い豪華な部屋に男一人がワインをくゆらせて飲んでいた。
そこに影を揺らすものが現れる
「人間はどうだった?」
男は影に問う
「睡眠薬が効いていなかったようで、応戦され、パストル皇太子殿下によって暗殺者はとらわれました。」
「そうか、人間には効かなかったんだな、残念、パースの大切な物がなくなるの見たかったんだけどなぁ」
月にワインを傾け、くっくと笑う男
「まぁまだ遊び方はいっぱいあるよね、さぁ次は何をしようかなぁ」
男は闇夜に楽しそうに笑うのだった。
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