愉快犯

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愉快犯

パラドーナ家は代々皇帝に仕えた。 皇帝を尊敬し 皇帝を愛し 皇帝に忠義を捧げた。 スライン伯爵の父、つまりメンテ宰相の父も例外なく長男であるメンテをしっかり教育した。メンテは実に優秀な子だった。 一方母は父の見ないスラインを優しく自由に育てた。だからスラインはいつも兄を見て思っていた。父に操られるマリオネットのようだと、 優秀で清廉潔白、誰もが憧れるパラドーナ侯爵嫡男はすぐに皇帝の目に止まり将来を望まれた。 それでもスラインは思っていた。 どうして兄は自分から大変な方に行くのか、どうして自由意思を持てないのか、父のためと言う言葉は学校を卒業するころには皇帝のためと言う言葉になっていた。 自分の為に動け無い傀儡のような兄、スラインでは考えられない事だ。 自分は楽しい事をしたい、自分の為に動きたい、確かに上級貴族や父、母のいう事を聞くこともあるけれど、けれどそれは自分の為になる時だ、女と遊び回るのが楽しいから遊ぶなと言う言葉は無視する、酒と遊びの為なら仕事もちゃんとしよう、馬上試合が好きだ、負けるのは悔しいが戦は楽しい、負けた者の悔しそうな顔は見ものだ。 何よりもそれが愉悦に浸れて楽しい、好き放題する俺は辺境の地に放り出された、辺境伯としての領地経営は面倒だが、上手く経営していれば村の者は自分を称え女も選び放題、貧乏子爵の娘を娶れば互いに好きな事をした。 女は俺に体を預ける代わりに金を使った。 俺も好きにした。気に入れば誰でも部屋に入れた。 ある日、とても美しいメイドが入って来た。懇意にしてる商家の紹介で入って来たそのメイドは少し陰気臭いがその儚さが美しかった。 そのメイドは媚びずへりくだらず真っすぐ仕事をした。媚びないメイドは始めてだ、抱いた女には小遣いをやる、だからメイドは少しでも気に入られようと媚びて来る、俺はそのメイドに興味がわいた。 だから部屋に呼び、陰気臭い顔に女の喜びを教えてやった。真面目に仕事だけする様から嫌がるかと思っていたが不思議な事に拒否はしなかった。 「メイヤ、俺の側室になるか?」 「御戯れをスライン様、私はただのメイドで十分です」 「側室になれば仕事せずに好きな事ができるぞ?」 「私は今のままで十分です、ただ素晴らしいスライン様に求めていただけた、それだけで十分です」 欲のないその言葉は嘘だと思った。 求めてもらって十分と言うには喜びを感じられない、不思議な娘だ、何を求めているのか全く分からない、それからスラインはメイヤを時折部屋に呼んだ人間らしい欲が見たかった。 清廉潔白な兄を見るような感覚に近いようで違う、その心に喜びを見たいのに、メイヤに喜びが見えない、ただ粛々と日々を過ごしている、 メイヤの笑った顔が見たかった。 そして何度も呼び出した。 スラインのお気に入りになったメイヤはメイドからイジメを受けているらしい、妻はと言えば、元々体の関係を嫌っていた女だったからか、自分の代わりに夫の相手をするメイヤを着飾りスラインに送り込む、メイヤの欲を見たいのに周りの欲ばかりが膨らむ、スラインはイジメるメイドを止めることはしない、メイヤが告げ口することを待っている、あいつらを殺せと激情を現すか、泣いて懇願するか、ただただメイヤを見ていた。 だが、メイヤは自分に求めることなく、いつの間にか消えてしまった。その数年後、国が荒れ、お飾り皇帝が国の上に立ち、兄の立派な宰相が崩れ始めた時、メイヤは死んだと、言う女といっしょにメイヤによく似た美しい赤毛の少女がスラインの前に現れた。 だがメイヤと違うのは自信に満ち溢れたその顔 「初めましてお父様」 その顔も赤毛も空のような青い瞳も一緒なのに全然違う、結局自分はメイヤに悲しみ以外の表情をさせることは出来たのだろうか、そういえば新しい皇帝は婚約者と仲が悪いらしい、宰相である兄はその隙を狙いたかったはず スラインはニヤッと笑った。 「お前を兄上に紹介してやろう」 娘、ミーシャは見事に清廉潔白だった兄の崩壊を手伝ってくれたのだった。 だが兄だけが崩れるならそれでいいが自分まで崩れるわけにはいかない、欲深いミーシャは、信者を切り捨て何とか首を繋いでいる。だが皇太子暗殺に巻き込まれる訳にはいかない。 「カタトリス伯爵がいらっしゃいました。」 「あぁ今行く」 教会に行って自分が潔白であると証明しに行かなければ、 久々に昔のことを思い出しふと思う ミーシャを産んだ時、メイヤは喜びに満たされたのだろうか、せめて自分との子供に喜びを感じて貰えたなら自分がメイヤの心を動かしたも一緒だろう、喜んでたら・・・・いいな、 そう思いながら、スラインはアクセラに連れられ教会に行く、 教会に秘密裏に連れてこられて、スラインは教皇の部屋に連れていかれる。 「いらっしゃいませパラドーナ伯爵、初めてお会いしますね」 「ワイヤーク教皇猊下にお会いできてうれしく思います」 何百と年下のはずのその人は流石教皇だプレッシャーが違う、他の貴族達とは立ち振る舞いも何もかも違う、これがイルミナス教の頂点に立つ者の迫力か、 「まぁまぁそんな緊張せず、とりあえず座ってください」 「ありがとうございます、では失礼します」 重厚感のあるソファーに腰掛ける。 「まず、行方不明のパストル皇太子殿下が生きてるからこちらにつきたいとのことですね?」 もうすでに虹色に光るワイヤークの目、もう審査は始まっているようだ。 「パストル皇太子殿下がそう簡単に死ぬとは思いません、死体が見つかっていないのがその証拠、ワニがドラゴンの鱗をかみ砕くことはありませんからね、手だけが見つかったからと死んだとは思えません、手だけならば聖女様が再生できる、だから死を偽装するために切り落としたのでしょう?」 「素晴らしい洞察力ですね、パラドーナ伯爵」 「おぉではやはり!」 喜びを見せるスラインにワイヤークは微笑む 「まだ生きていると断定できませんが、私どももそのような事だろうと思っています。ですがよろしいのですか?婚外子とはいえ、ミーシャ皇后陛下もあなたの実のお子さんでしょう?」 スレインはメイヤを思い、ミーシャを思い起こす 「あの子は私のお気に入りのメイドとの子供だと言ってやってきました。確かにあの子はメイヤに・・・メイドのよく似た顔ですが中身は全然違います、メイヤはいつも寂しい悲しい顔をして粛々と仕事をしていました。私のお気に入りだというのにそれを笠に着ることも無く、ただ仕事をするのでイジメる者もいました。けれど最後まで私に頼ることは無かった・・・・そして死んでしまった。ミーシャが・・・・・あの子が生まれた時にメイヤに喜びがあって愛情深く育てたからか、ミーシャは自信に満ちた子で、私まで利用しようとする目はあまりにメイヤと違って、見た目はそっくりなのに親子なのか疑いましたよ、メイヤが残した子ですがどうもあの子には愛情を持てない、これはおかしなことですかね」 ワイヤークが笑顔を崩さずに言う 「メイヤさんを愛しておられたのですね」 愛、あい、そうか・・・・自分はメイヤを愛していたのか・・・・けれど、メイヤはもういない、今更気がついても遅い 「それにメイヤが生きている時に気がつけばまだ、何か変わっていましたかね」 思わず目が潤む、愛した人を笑顔にできなかっただけでなく、知らぬ間に失っていた。メイヤの悲しみに寄り添い、頼られたいなど考えず自分でいじめを止めてあげていれば出て行かなかったかもしれない、本当に自分はどうしようも無い盆暗人間だ。 「貴方は本当に何も知らないようだ」 「えぇミーシャと兄上の作戦は知りません、それでも何がしたいかわかる、兄上の暴走を止める手助け、どうかさせてください」 ワイヤークとアクセラは目を合わせワイヤークが頷く そしてアクセラがスラインに言う 「貴方を信じましょう、ですがすべては話せない、このバングルを預けます、皇太子任命式の日これをミーシャ皇后に付けさせてください」 「承知しました。」 スラインはバングルの入った箱を大事に抱え込んだ。
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