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一重まぶたの私。
人の目を見て話すことが難しくなったのは小学校高学年のときだった。
それは第二次性徴の真っ只中で心身ともにその成長は著しく、メイクや身なりなんかも当然女の子たちは意識し始めた。
それは私も同様でスマホでメイク動画を見たり時々本屋で大人向けの雑誌なんかを参考にして、見様見真似でキレイを繕ってみた。だけど、どこか違う。なかなかうまくいかない。
周囲のみんなはどんどん可愛くなっていくというのに、私だけ何かひとり違って見えていた。
そうか。目だ。二重でも奥二重でもない私のまぶたは立派な一重だった。
メディアも周囲の友人も両親も何故かみんなキレイな二重。そこばかりに目がいくから余計にそう感じてしまうのかもしれないけれど、やっぱり羨ましかった。
憧れのメイクだって、私の一重じゃ全然そこへ近づけない。今でこそ二重にするためのアイテムなんて充実しているけれど、ビフォーアフターのギャップが何だか悲しくなって、私は使えなかった。
「ねえ、見て見て。この人、めっちゃ可愛くない?」
「あ、それ私も昨日ネットで見た!」
「天然でこれってヤバイよね」
「このパッチリ二重憧れる」
どれどれ。ほお、これはなかなか立派なおメメだこと。先祖を遡れば絶対に日本人以外の血筋も入っていそうだ。
お昼休み、恒例のガールズトーク。恋バナなんかもすることはあるけれど、最近は専ら美人発掘に夢中の私たちだ。美とは本当に不思議なもので、追求すればするほど何だか見えない深みにハマっていく感覚だった。そこに満足というゴールはなく、私たちはどこに向かっているのか先の見えない道をただひたすら走っていた。
「ねえ、今日あそこ行きたい。新しくできたブックカフェ」
「いーね。行こ行こ! なんか雑誌とかもめっちゃ充実してるらしいよ」
「あ、私ドリンクのクーポン持ってる」
「さすが! じゃあ今から行くかって……三野っちも来るでしょ?」
片付けを終え席を立つ友人たちが一斉に私の方へ視線を向けた。
いちおう補足しておくけれど、私は別にイジメられてはいない。奇数の5人グループだけど、私以外みんな二重で美人だけど、もうかれこれ1年以上もずっと仲良くしている気の置けない友人たちだ。
私はごめん、と手を合わせると彼女たちに言った。
「今日風紀委員会なの……。終わったらすぐに行くから、先に行ってて」
そうだ。今日は月に一度やって来る風紀委員会の日だった。そして私にとって最も憂鬱な日でもあった。
「まあまあ、そんなに落ち込まなくても」
一人の友人が落ちた私の肩をぽんぽんと叩いた。
「そうだよ、三野っち。早く行ってあげないと」
そしてその隣りにいた友人は何故かニヤついていた。いや、ニヤついているのは他のみんなもか。
彼女たちが視線を送る先には私を憂鬱にさせる原因であるその人物がいた。
私はペンケースを持つと深呼吸してその場をあとにした。
「三野さん」
教室を出る手前でその人物は私を捕らえた。
この人は同じクラスの柳くん。そして私と一緒に風紀委員会を務める男の子だ。
「今日の風紀委員会、いつもと教室が違うんだって。さっき先生から聞いた」
「あ、そうなんだ」
「うん。だから一緒に行こう」
ん? だから一緒に行こう? って、なんか変じゃないか。別に場所さえ教えてくれれば一緒に行く必要なんてないのに、変な人。
さっきだってずっとスマホを見ていたのに私が教室から出るタイミングで突然話しかけてきたし、彼の友人だってとっくに帰っていたのに教室にひとりでいて、まるで何か待っているみたいに……やっぱり変な人だ。
「あの……柳くん、どこに向かってるの?」
行き先も言わずひとりで先を行く彼について行ってたはいいが、どんどん人気がなくなってきた。ここは別棟の移動教室が集まる建物。まさかこんなところで委員会があるの?
なんて、そんな疑問はすぐに掻き消された。
彼は立ち止まり振り返るとこう言った。
「変更になったのは教室じゃなくて、時間だよ」と。
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