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強面の俺。
要するに人は見た目が大事だって女はよく言うが、それは俺自身も激しく同意したい事実だった。
“ねえ、ちょっと見た? 今の人……”
“見た見た。ヤバかったよね”
“なんかオーラからしてもう怖いんだけど”
“あの顔であの身長の高さだもん。どうしようもないよね”
ああ、せめてこの電車に男子専用車両なんてものがあったら、もう少しマシなのかもしれないが。
顔面が他の人よりも(ずっと)イカツイことも、電車のつり革を超えるこの身長も、俺は未だに好きになれないでいる。
一部の友人たちは主に身長については羨望の眼差しってやつを向けてくるが、それはイケメンという容姿があって初めて成立することだと俺は思っている。
だって考えてもみろよ。どれだけ高身長だって、例えばその上についている顔面が馬面だったら?
そんなの誰がなりたいと思うか。
いや……違うな。いっそ馬面の方が良かったのかもしれない。そしたら、それはそれでイジり甲斐がある。少なくとも今みたいに怖がられて敬遠される人生ではなかったはずだ。
俺の場合、さらに高身長という身体的要素が加わってしまったお陰でそのイカツサは指数関数的に増した。
“――次は××駅。××駅です。お出口は左側です”
乗り換え線の多いこのハブ駅はいつも人の出入りが激しかった。ドア付近にいた俺は一度下車してそれが落ち着くのを待った。
朝の通勤ラッシュだ。皆、我先にと言わんばかりに乗り降りをする。その中でふと目に止まったのは降車する人だかりの中に自分と同じ制服を見つけたから。
その流れからうまく抜け出せないのか、どんどんホームから遠ざかっていく。ここはまだ降りる駅ではない。なんなら、この電車を逃してしまえば遅刻にだってなりかねない。
気付けば俺はその人に手を伸ばしていた。
「あ、あの……ありがとうございました」
その女子生徒はぺこりと頭を下げた。だけど俺の顔を見た瞬間、パッとその顔を逸したのだった。
「隣、女性専用車両だからそっちに行った方が良いと思うよ」
それだけを言うと俺は再び電車に乗り込んだ。
こんなことはもう慣れっこだった。大体皆、同じリアクションをする。この人も例外ではなかった。ただそれだけのことだ。だから何も気にすることはない。いつものことなのだから――。
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