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匂い惚れから始まる愛され生活は……(前編)
西暦2XXX年。
男女の性とは別にあるバース性。
かつて地球上のほとんどの人口はベータで、アルファとオメガが少ない数で存在していた。
発情期があり、その度にフェロモンを撒き散らすオメガは迷惑な存在として見られることが多かったが、抑制剤の開発が進み、発情期をコントロールして暮らせるようになった。
オメガからアルファが生まれやすいという研究が進み、子を望むカップルはついにバース性を選択することができるようになった。
誰もが優秀なアルファの子供が欲しいと望んだ。アルファが生まれるにはオメガの存在は不可欠なので、オメガを選ぶと補助金がでるようになった。
こうして多子家庭が増えて、人類アルファ化計画によって、人口の割合はついに逆転し、バース性はアルファとオメガが占めることになった。
ベータについては、ほとんど望む人がいないので、突然変異のように偶然でしか生まれなくなった。
かつてのオメガのように人口の数パーセント、といったところだが、オメガのように貴重とされるものは何もなかった。
ベータの女であれば、まだ子を産める可能性があるが、ベータの男は誰からも相手にされず、優秀すぎる周りに囲まれて、肩身の狭い一生を送ることになる。
そんな時代に生まれた、悲しきベータの男、それが俺、セイジュ・アガサ。
アルファの人口が増えたことで、様々な分野で開発が進み、人類は地球を飛び出して、今は他の星にも移り住んでいる。
ということで、国境は消えて、すべての人間が地球国、地球人という名称に統一された。
厳密に言うと、それぞれ出身だとか言語に地域差があるのだが、今は脳内に埋め込まれたチップによって、言語は統一されてコミニケーションに困ることはない。
必要な情報はチップを通じて、目の前にモニターを出現させることができるので、みんな何もかも、それに頼って生活している。
もちろん、こういったシステムを開発したのはアルファ達だ。
俺の両親は女アルファと女オメガだったが、妊娠に向けたカウンセリングで、当然のようにアルファを勧められた。
何も分からなかった二人は、言われるままにアルファを選択したはずだったのに、生まれてきたのがベータの男だったので、ひどく驚いたらしい。
一般的にはベータは、平凡で秀でたところがなく、むしろ劣っていると思われることが多い。
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