匂い惚れから始まる愛され生活は……(前編)

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「多分だけど、不眠症で寝不足だったからじゃないかなって」 「不眠症? 寝不足? アイツはいつも夜はぐーぐーよく寝ているよ」 「それだよ。俺達はフェロモンの匂いを嗅ぐだけで、頭の中が勝手に動き出して、分析を始めてしまう。特に、アルファ性が濃いリザベルトは桁違いに影響を受けるんだ」  匂いから情報がどうとか、リザベルトがそんな話をしていたのを思い出した。  確かに寝ている時にそれだけ頭が働いていたら、とても眠ることなんてできなそうだと思ってしまった。 「何はともあれ、セイジュが来てくれてよかったよ」  ラリックはそう言って人の良さそうな顔で笑った。  リザベルトは初見の時からすでに爆睡していたので、不眠症なんて言葉は今まで思いつきもしなかった。  とりあえず、今は問題なく寝ているみたいだし、気にすることはないだろうと思った。 「セイジュ、教師達だが、あまり厳しくしてくるようなら、俺から言ってやる」  今まで黙っていたのに、リザベルトから突然話しかけてきたのがそれだったので、セイジュは力が抜けそうになった。 「いいって、大丈夫だって言ってるだろ。波風立てたくないんだ。先生達はずっと関わることになるし、卒業までちゃんとしないとさ、せっかく両親が入れてくれたんだから」  目をつけられるのは仕方がない。  リザベルトも助けてくれるし、我慢して頑張るしかないと思っていた。  変に目立つのも嫌だし、嫌味や課題くらいなら何とかなる。  ここは穏便に過ごしたいと思っていた。  学食へ到着すると、すでにテーブルはかなり埋まっていて、空いているところを探す必要があった。 「セイジュ、リザベルトと回ってくるから、そこで待っていて」  多額の入学金を支払っているので、学内の施設は全て無料で使用できる。食事も何を食べようと全部タダだ。  それはありがたいのだが、やはり昼食時はみんなが集中するので混み合ってしまう。  毎日座席を確保するのがやっとだった。  ラリックは空いた席を見つけるのが早いので、おそらくリザベルトは俺の分のランチプレートまで全部用意してくれるだろう。  二人に比べたら背の小さい俺は、席取りや注文の競争に負けてしまう。こんな時全然役に立たないので、せめて甘い物でも調達しようと、デザートコーナーへ向かおうとした。
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